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貞子よりも恐ろしい…「リング」の鈴木光司が体験した「海の怪」3選

貞子はなぜ井戸にいたのか?〜『海の怪』まえがきより

 貞子が井戸から這い出てくるシーンは、映画のおかげでとても有名になってしまった。ところで、なぜ井戸なのか……、そこには深い訳がある。

 日本人であるぼくにとって、広く荒涼たる砂漠はホラーの舞台となり得ない。乾燥しすぎているからだ。怖い話を作ろうとして、まず思い浮かべるのは、「水気の多い閉ざされた空間」というシチュエーションである。

 日本的な怪談の時間帯は、大抵、草木も眠る丑三つ時で、霧雨に煙る柳のそばにはなぜか川が流れていたりする。水という媒質には得体の知れぬ情念を伝播させる役割がある。
 水とホラーは実に相性がいい。

 そしてもうひとつの条件は「閉ざされた空間」。
 日本的な怪談の特徴は目に見えない怨念に代表される。『リング』の中、井戸に落とされた貞子は、コンクリートの蓋で密閉された空間で、ゆっくりとした死に向かう。密封された空間に逃げ場はなく、死んだ後も怨念はその場に残り、じっくりと熟成される。

 今回、肥大化しすぎた貞子の怨念を広大な海原に解き放とうと思う。
 海は危険が多い。陸にいるときとの比ではなく死ぬ確率は高まり、無念な死を遂げた者の魂が多く彷徨う。
 夜の海で時化に遭ったときなど、吹きすさぶ風浪の音が、断末魔の人間の叫びのように聞こえることがある。
 風浪に運ばれて貞子の怨念は雲散霧消してしまうのか、あるいは無限の空間に次々と伝播して、新たなストーリーを紡ぎだすのか……。

 ここに集めたのは、25年に及ぶ自身の航海経験を中心に、海の仲間や、知人友人から聞いた怖い話、不思議な話、おかしな話など、様々なエピソードである。
 怖がらせて海を遠ざけようという意図はない。むしろ、海の神秘に触れて畏怖の念を抱き、さらに魅せられてほしいと願う。

稲川淳二氏推薦コメント

「心地よい恐怖に浸るうちに怪異な闇に呑み込まれてゆく極上のミステリーに酔い痴れました」

貞子より恐ろしい…海をめぐる18話

ホラー界に金字塔を打ち立てた鈴木光司さんが、実話をもとに語る海への畏怖と恐怖に彩られた18のエピソード。
世界を船で渡った男だからこそ知る、海の底知れぬ魅力とそこに秘められた無限の恐怖とは……。
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刊行を記念し、稲川氏とのコラボレーション動画も配信予定です。
どうぞお楽しみに!

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