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医師で小説家・知念実希人さんの100万円の使い道。「コロナ禍の出口を見据えて…。祖母の待つ沖縄に帰りたい」

医師で小説家・知念実希人さんの100万円の使い道。「コロナ禍の出口を見据えて…。祖母の待つ沖縄に帰りたい」

注目の各界キーパーソンに「もしいま自由に使える100万円があったら何に使うか?」をたずねる特集連載「100万円! あの人の使い道」。

その使い道から見えてくるのは「お金や人生についての価値観や哲学」。誰しも関心があり、生きていくには絶対に必要なものだけれど、それに囚われすぎても幸せな人生とはいえない――そんな不思議な存在、「お金」に迫ります。

前回は書道家の武田双雲さんにご登場いただきました。

今回は、新刊小説『硝子の塔の殺人』が話題の知念実希人さんが登場。最近はTwitterなどを通して新型コロナウイルスに関する積極的な情報発信でも注目を集める知念さん。気鋭の医療ミステリー作家として、医師として、コロナ禍の今考える100万円の使い道とは……。

(構成・文/「よみタイ」編集部)

お金は通帳に並ぶ数字にすぎない

「100万円の使い道」というテーマで取材を受けてしまったのですが、僕は昔から本当に物欲がなくて、自由に使えるお金があったとしても、これといって欲しい物がないんです。高級車やブランドの服などは欲しいという感情を持ったことすらありません。

お金はもちろんあれば安心するものですが、ある程度を超えたら通帳に並ぶただの数字になってしまうと思っています。だからお金に執着はありません。

今はありがたいことにたくさんの方が僕の作品を手に取ってくださっているので、お金に執着しなくても生活できるようになったという言い方もできるかもしれませんが、もし本が売れなくてお金がもらえなくても、僕は小説家として創作活動を続けると思います。
それはやはり純粋に物語を作るということ自体が好きで、生きがいだからです。
ご存知の方も多いと思いますが、僕は医学部を出ていて、2年ほど専業の医師として医療現場で働いたのち、作家になりました。
今振り返ると、専業の医師として働いていたときは、心から仕事が楽しいとは思えていませんでした。もちろん患者さんを助ける医療活動にやりがいはあったのですが、自分自身への心身の負担も大きく、どこかで生活のための仕事になっていたように思います。だから、もしあのまま医師だけを続けていて、たとえば宝くじに高額当選するとか、何かのきっかけで今後の生活に困らないほどのお金が手に入ったら、仕事は辞めていたかもしれません。

医師でミステリー作家の知念実希人さん。最新刊『硝子の塔の殺人』(実業之日本社)が好評発売中。
医師でミステリー作家の知念実希人さん。最新刊『硝子の塔の殺人』(実業之日本社)が好評発売中。

今の僕にとって、お金は楽しい物語を書いたら付随してついてくるものといったイメージです。
そして、創作活動のモチベーションはお金ではなく、まず、自分が面白いと思う作品を生み出したいというところにあります。
小学生の頃から、本を読んでフィクションの世界に浸ることが好きでした。フィクションの中でも特にミステリー好きである自分を満足させるような質の高い物語を生み出したいという欲求が、小説家としての活動のベースにあります。

自分が興奮できる物語を書きたい、そして、それを読んだ人に喜んでもらえたらとてもうれしい。今回デビュー10年記念作品として『硝子の塔の殺人』を出しましたが、10年前から今に至るまで、その思いは変わりません。
もちろん、多くの人の手に届いた結果がお金という形で返ってくるのは、ありがたいことだとも思っています。

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新刊紹介

知念実希人

ちねん・みきと●医師、小説家
1978年、沖縄県生まれ。東京都在住。東京慈恵会医科大学卒、日本内科学会認定医。
2011年、第4回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を『レゾン・デートル』で受賞。12年、同作を改題、『誰がための刃』で作家デビュー(19年『レゾンデートル』として文庫化)。「天久鷹央」シリーズが人気を博し、15年『仮面病棟』が啓文堂文庫大賞を受賞、ベストセラーに。『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』『ムゲンのi(上・下)』で、18年、19年、20年本屋大賞連続ノミネート。『優しい死神の飼い方』『時限病棟』『リアルフェイス』『レフトハンド・ブラザーフッド』『誘拐遊戯』『十字架のカルテ』『傷痕のメッセージ』など著書多数。最新刊に『硝子の塔の殺人』がある。今もっとも多くの読者に支持される、最注目のミステリー作家。

Twitter @MIKITO_777

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