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貞子を生んだ鈴木光司氏が20年封印していた無人島のビデオに映っていたもの

 問題は、そのような修繕が「いつ為されたか」である。
 1970年以前であったなら、他の木造家屋と同様に、倒壊の憂き目に遭っていたはずである。したがって、ヒトの手によって修繕されたのは1970年以降ということになりそうだ。しかもごく最近とみるべきである。
 疑問をキープしたまま拡大画像を等倍に戻し、右手にある山の斜面へと焦点をずらした。そこに鎮座まします、ピサの斜塔のように傾いた巨大な石灯籠いしどうろうに、好奇心をくすぐられたからだ。
 巨大といっても、写真では縮尺がわからず、祠と比較して不釣り合いに大きいというだけである。実際に目の当たりにすれば、思いのほか小さいのかもしれない。
 石灯籠には妙な存在感があった。今にも祠に倒れかからんばかりに身を傾け、岩の台座で踏ん張る姿が、滑稽でもある。
 眺めているうち、目は徐々に、石灯籠の背後にある山の斜面へと吸い寄せられていった。
 なだらかな斜面に太い樹木はなく、ところどころに低木の茂みを残しつつ、湿った草に覆われて鈍い緑色を放っている。
 その緑色の斜面の中央には、またしても、他と色合いを異にする長方形のスペースがあり、大地に施された「ぎ」のように見えてくる。
 緑色の草とコントラストを成す茶褐色の部分を拡大してみると、長方形の形に土が掘り起こされていて、その部分だけ不自然に盛り上がっている。山側の端には、細長い板切れが立てられているのがわかった。板の表面には文字らしき模様が描かれているのだが、墨を流したように滲んで文字を読み取ることができない。
……戒名ではないか。
 そんな発想が浮かぶや、細長い板切れにぴったりの名称を思いついた。
……卒塔婆そとば
 となると、褐色の長方形は墓であり、土の下には死体が埋まっている……。
 死んだ人間が自ら土の下に潜り込んで卒塔婆を立てるはずがなく、別に、埋めた人間がいることになる。
……どこにいるのか?
 モニターに顔を近づけて人の痕跡を探すうち、今にも観音開きの板戸がバンと開き、黒い影が飛び出してきそうな気配が前方から押し寄せ、思わず映像をストップさせていた。
 このあとの展開は見なくても覚えている。獣道を登った先から鹿が現れ、「誰か、いる」という雰囲気の原因がわかったとばかり、われわれは胸を撫で下ろしたのだ。
 しかし、映像を見終わった今は、「誰か、いる」という異様な雰囲気の正体は鹿ではなかったと、確信を持って言える。
 現実に、「誰か、いた」のだ。

©PhotoAC
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貞子よりも恐ろしい…海をめぐる18話

ホラー界に金字塔を打ち立てた鈴木光司さんが、実話をもとに語る海への畏怖と恐怖に彩られた18のエピソード。
世界を船で渡った男だからこそ知る、海の底知れぬ魅力とそこに秘められた無限の恐怖とは……。
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鈴木光司

すずき・こうじ●1957年静岡県浜松市生まれ。作家、エッセイスト。90年『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。91年の『リング』が大きな話題を呼び、その続編である95年の『らせん』では吉川英治文学新人賞を受賞。『リング』は日本で映像化された後、ハリウッドでもリメイクされ世界的な支持を集める。2013年『エッジ』でアメリカの文学賞であるシャーリイ・ジャクスン賞(2012年度長編小説部門)を受賞。リングシリーズの『ループ』『エッジ』のほか、『仄暗い水の底から』『鋼鉄の叫び』『樹海』『ブルーアウト』など著書多数。
「鈴木光司×松原タニシ 恐怖夜行」(BSテレ東)期間限定放送中。

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