よみタイ

不倫バッシング、夫の名前の表札…「日本の家族観」が生む苦しみ。南和行さん×三輪記子さん弁護士対談

離婚は罪ではない

三輪 南先生の本の中でも自己中やなって思う登場人物がいっぱい出てきますけど、本人にとってはそんな意識はないんだと思うんです。
というのも、弁護士やっていると、「この話はもしかしたらちょっと自分勝手な話ちゃうかな」と感じるような話もたまにあるじゃないですか。でも他人から見ると自分勝手に思える主張も、我が身に置き換えたら理解できることもあって。結局みんな自分ごとになれば必死で、多かれ少なかれ自己中になると思うんですよ。
他人のことを自己中って責める人って、自分のことを自己中と思ってへんのかなと思うんです。それは不倫も一緒で、その環境に置かれたときに絶対不倫しないと言えるかどうか、ちょっと難しい。事情を聞かないと分からないじゃないですか。  
たとえ不倫をして慰謝料が発生することになったとしても、その責任を負うのは当事者だけだし、そもそも不倫された人が必ず相手を訴えなきゃいけないわけでもない。私はやっぱり不倫や離婚は当人同士の問題でしょうと思っていますし、他人が責めていいものではないと思っています。

新刊著書が「『うまく続ける結婚』と『上手にできる離婚』のガイドブックになればうれしい」と南和行さん
新刊著書が「『うまく続ける結婚』と『上手にできる離婚』のガイドブックになればうれしい」と南和行さん

 僕がそのことについてこの本の中で書いたのは、「ケース9 結婚は、人生の罰ゲームなんですか?」というエピソードです。自分でも1番と言っていいくらい気に入っている話なのですが。
エリート官僚の夫がいて、その夫のおかげで苦労せずにすんでいるのに、主人公の妻は学生時代に好きだった男にいって……という話で、多分客観的にはこの主人公が自分勝手で悪いということになると思うんですよね。

三輪 そうですね。

 でも僕は書いているうちに心情的に主人公の味方になってきてしまったし、こういう自分勝手に思えてしまう人間をただ批判するのではなく、その心の中身を少しでもわかってもらえたらな、という思いで書きました。

あと、「ケース14 同業の夫より有能な検察官の妻が算段する、離婚までの道筋」で書いたのは、検察官の女性が主人公のエピソードなのですが、彼女は自分が優秀なこともあって、夫の資質や能力に物足りなさを感じていて、バツイチで検察官としての能力も高い上司と不倫関係になるんです。で、法律的にもお金で解決して夫を捨ててしまう。
なかなかこんなふうにうまくやれる女性はいないと思うけど、仕事もできて、モテるような女性だったら、割り切って金を使って、楽しい人生のほうを取るわけですよね。
これは不倫をして、さらに相手を金でねじ伏せてしまうところが自己中というふうに見えるかもしれへんけど、夫ではない相手を恋愛として好きになってしまうこと、そして結婚した人と残念ながら人生を添い遂げられなかったこととか、それに対してそんなに罪悪感を持つ必要はないですよと、そこを感じてもらえたらな、なんて思ったんですよ。

お金で解決できることはやはり大きい……(©️上田惣子/集英社)
お金で解決できることはやはり大きい……(©️上田惣子/集英社)

三輪 私はその検察官女性のエピソードを、女性のキャリアとか資格とか、経済的な自立というのが自由な人生をもたらすという物語として読みました。この主人公を自分勝手な女やなと読む人はいると思うんですけど、私はキャリアと経済的ゆとりがあるからこそ自由なセックスができる女性として読んだんです。まぁ、何が「自由」なのかは一概には言えないんですけど。お金は払わなあかんし。
色々なケースはありますが、一般的には経済力があれば人生の選択肢は増えますよね。私はよく、どんな依頼者であれ、経済的な自立、何でもいいから仕事をしましょうと言います。でも、特に女性の場合は、一度仕事を辞めてしまうと、年をとってからでは経済的な自立が厳しくなるというのが、日本の大きな問題点なんですけどね……。

1 2 3

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

三輪記子

みわ・ふさこ●弁護士
1976年10月24日生まれ。京都府出身。東京大学法学部卒。
立命館大学法科大学院修了。2009年9月、司法試験合格。2010年12月、弁護士登録。以降、京都を拠点に弁護士業に携わる。
2017年9月に東京に拠点を移し(第一東京弁護士会所属)、2021年3月に「三輪記子の法律事務所」を開設。
各種ハラスメント問題や離婚・男女トラブルなどのエキスパートとして活動。
また、報道・情報番組のコメンテーターとしても多数の番組に出演中。
趣味は「法律相談・筋トレ・読書・映画鑑賞」。好きな言葉は「意識が存在を規定するのではなく、存在が意識を規定する」。
・三輪記子の法律事務所
https://www.miwafusako.com/
・三輪記子のTwitter
https://twitter.com/bi_miwa
・三輪記子のInstagram
https://www.instagram.com/fusakodragon/

南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部卒業、同大学院修士課程修了後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に二人で弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』(監督:戸田ひかる)は、2017年の第30回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で作品賞を受賞し、2018年全国上映で好評を博す。タレント弁護士として、テレビ番組へのコメンテーター出演やドラマ・映画の監修なども手掛ける。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・南和行のInstagram
https://www.instagram.com/minami_kazuyuki/

週間ランキング 今読まれているホットな記事