2021.7.1
不倫バッシング、夫の名前の表札…「日本の家族観」が生む苦しみ。南和行さん×三輪記子さん弁護士対談
離婚は罪ではない
三輪 南先生の本の中でも自己中やなって思う登場人物がいっぱい出てきますけど、本人にとってはそんな意識はないんだと思うんです。
というのも、弁護士やっていると、「この話はもしかしたらちょっと自分勝手な話ちゃうかな」と感じるような話もたまにあるじゃないですか。でも他人から見ると自分勝手に思える主張も、我が身に置き換えたら理解できることもあって。結局みんな自分ごとになれば必死で、多かれ少なかれ自己中になると思うんですよ。
他人のことを自己中って責める人って、自分のことを自己中と思ってへんのかなと思うんです。それは不倫も一緒で、その環境に置かれたときに絶対不倫しないと言えるかどうか、ちょっと難しい。事情を聞かないと分からないじゃないですか。
たとえ不倫をして慰謝料が発生することになったとしても、その責任を負うのは当事者だけだし、そもそも不倫された人が必ず相手を訴えなきゃいけないわけでもない。私はやっぱり不倫や離婚は当人同士の問題でしょうと思っていますし、他人が責めていいものではないと思っています。
南 僕がそのことについてこの本の中で書いたのは、「ケース9 結婚は、人生の罰ゲームなんですか?」というエピソードです。自分でも1番と言っていいくらい気に入っている話なのですが。
エリート官僚の夫がいて、その夫のおかげで苦労せずにすんでいるのに、主人公の妻は学生時代に好きだった男にいって……という話で、多分客観的にはこの主人公が自分勝手で悪いということになると思うんですよね。
三輪 そうですね。
南 でも僕は書いているうちに心情的に主人公の味方になってきてしまったし、こういう自分勝手に思えてしまう人間をただ批判するのではなく、その心の中身を少しでもわかってもらえたらな、という思いで書きました。
あと、「ケース14 同業の夫より有能な検察官の妻が算段する、離婚までの道筋」で書いたのは、検察官の女性が主人公のエピソードなのですが、彼女は自分が優秀なこともあって、夫の資質や能力に物足りなさを感じていて、バツイチで検察官としての能力も高い上司と不倫関係になるんです。で、法律的にもお金で解決して夫を捨ててしまう。
なかなかこんなふうにうまくやれる女性はいないと思うけど、仕事もできて、モテるような女性だったら、割り切って金を使って、楽しい人生のほうを取るわけですよね。
これは不倫をして、さらに相手を金でねじ伏せてしまうところが自己中というふうに見えるかもしれへんけど、夫ではない相手を恋愛として好きになってしまうこと、そして結婚した人と残念ながら人生を添い遂げられなかったこととか、それに対してそんなに罪悪感を持つ必要はないですよと、そこを感じてもらえたらな、なんて思ったんですよ。
三輪 私はその検察官女性のエピソードを、女性のキャリアとか資格とか、経済的な自立というのが自由な人生をもたらすという物語として読みました。この主人公を自分勝手な女やなと読む人はいると思うんですけど、私はキャリアと経済的ゆとりがあるからこそ自由なセックスができる女性として読んだんです。まぁ、何が「自由」なのかは一概には言えないんですけど。お金は払わなあかんし。
色々なケースはありますが、一般的には経済力があれば人生の選択肢は増えますよね。私はよく、どんな依頼者であれ、経済的な自立、何でもいいから仕事をしましょうと言います。でも、特に女性の場合は、一度仕事を辞めてしまうと、年をとってからでは経済的な自立が厳しくなるというのが、日本の大きな問題点なんですけどね……。