2022.6.26
本に引き出された人生そのもの——三砂慶明さんが読む『本を読んだら散歩に行こう』
認知症が進行する義母の介護、双子の息子たちの高校受験、積み重なりゆく仕事、長引くコロナ禍――。
ハプニング続きの日々のなかで、愛犬のラブラドール、ハリーを横に開いた本は……?
読書家としても知られる村井さんの読書案内を兼ねた濃厚エピソード満載のエッセイ集です。
本書の刊行を記念して、連続書評特集をお届けします。
第2弾は、『本屋という仕事』が発売となったばかりの三砂慶明さんです。
先日行われた梅田 蔦屋書店での村井さんと三砂さんのトークイベントは、久しぶりの対面開催。
本や書店との付き合い方、翻訳とエッセイの書き方など、予定時間を超過するほど盛り上がりました。
村井さんの長年のファンであるがゆえに、「冷静にならなければと思って再読してもやはりいい本だった」という本書の魅力を、自著『千年の読書 人生を変える本との出会い』が好評の三砂さんが綴ってくださいました。
(文/三砂慶明 構成/よみタイ編集部)
本の世界を歩くように幅広く
本書は、翻訳家であり、エッセイストの村井理子さんがはじめて書いた読書エッセイ集です。古今東西の書物に精通する村井さんが一体どんな本を紹介しているのか。それだけでも読み応えがありますが、この本の真骨頂は、本に引き出された村井さんの人生そのものです。目次を読むと、それがはっきりします。
「父の死と、さみしさという遺産」にはじまって、「義両親と過ごす修行を経て戻った大好きな正月」に終わる40章が、選び抜かれた40冊の本とともに記されています。取り上げられている本のジャンルは、エッセイ、介護、レシピブック、小説、ノンフィクション、コミックに図鑑、写真集と、まるで本の世界を歩くように幅広く、和書だけではなく洋書や電子書籍、オーディオブックと本そのものの種類も多様です。
紹介された本を手に取って読みはじめると、いくつかわかったことがありました。まず本書で紹介されているのは人生に効く本です。まるで漢方のように身体の芯にじんわりと効く本もあれば、外科手術的にグサリと突き刺さる本もあります。さらに、本書では村井さんが今まで書き継がれてきた著作の背景を存分に語っているので、村井さん自身のブックガイドにもなっています。何より素晴らしいのは、なぜ人生には本が必要なのか、その秘密が著者の人生を通して描かれていることです。本には魔法が備わっていると著者はいいます。
「本の世界では、本を開く人間が主役だ。つまり、読者が主役となり、読者の心のなかに本の舞台がどこまでも広がって行くという奇跡が起きる。(中略)抱えきれないと思っていた悩みも、本の登場人物と痛みを共有することで、手放すことができる」
私たちは一人ではないのだと、村井さんは本棚を背景に優しく語りかけてくれます。そして、実際に本を読むとき、私たちは一人ではありません。ページを開けば、そこに村井さんと村井さんが紹介してくれた最良の友人がいます。
(三砂慶明 読書室主宰/梅田 蔦屋書店人文コンシェルジュ)
6月24日発売! 読書案内&エッセイ集
想定外の人生、かたわらには、犬と本。
大反響の既刊『兄の終い』『全員悪人』『家族』に連なる濃厚エピソードと40冊。
人気翻訳家・村井理子さんの最新エッセイ集『本を読んだら散歩に行こう』の詳細はこちらから!