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桜木紫乃×オザワミカ いつか母に忘れられ、やがて子を忘れる母になる――絵本『いつかあなたをわすれても』刊行記念対談

“人として楽しむ”ことから生まれた作品

オザワ 「自分の絵を描こう」と思ったのには、もうひとつきっかけがあって。

桜木 それは、どんな?

オザワ 私、いつも挿絵とか本のカバ-のような1枚絵の仕事が多くて、24 ページも描くのは初めてだったんです。だから、「その枚数描き上げられるような絵でなくちゃ」って、変な方に意識が向かってしまったんですよね。でも、デザイナーさんに第一稿を見せた時に、「オザワさん、たかだか 24 ページでしょ」と言われて、ハッとしました。
「そうか、24 ページちゃんと全力で描いてこそ絵本だ」って。「おまえの絵で描け」って、ハッパを掛けられた気もしました。

桜木 伝わってきましたよ。小説家も、自分のために書く作品ってあると思うんですよね。私の場合、『家族じまい』がそうでした。「自分が楽しいものは、私と似た誰かに必ず伝わるはずだ。そういう人にわかってもらおう」っていう。とくにここ2、3年は、そんな気持ちで小説を書いてるんですけれど。

オザワ 私も同じ気持ちです。

桜木 絵も文章も表現である以上、自分が“人として”楽しんでないものはどこかに無理がありますよね。その点では、私はこの絵本で、表現を楽しまなきゃいけなかった。文章も短いし、ウソはすぐばれてしまいます。

オザワ ああ、本当。ばれますよね。

絵を見て文を直し、文を見て絵を直し、のラリーが始まる

桜木 今回は描いててどうでした? 楽しかったですか?

オザワ 楽しかったのと大変だったのの、両方ですね。初めて、描いた人物が“動く”ということをやったので、そのつじつま合わせみたいなのは苦労しました。でも、文章がつくことで、人物が話に沿って勝手に動き始めた部分もあって、それはすごくおもしろかった。絵柄を変更して一気に絵を描き上げた後、校正された文章を読み直して、「この場面で、こんな表情はしないな」と思って、描き直したり。

桜木 私も、絵に教えられて書き直した文章がありましたね。オザワさんは、編集者と同じく最初の読者。表現を職業にされている方にどう届くのか、いつも気になっていて。編集者に渡す前の原稿も、ああでもない、こうでもないって、付箋を貼りながら、これ違うなとか、ここに何があったらいいかなとか考えてました。

オザワ 桜木さんが推敲した文章読んで、すごく調整されたんだと思いました。「こういうことを思って直したのかな」なんて、想像しながら。なんだかセッションしているみたいな作業でした。

桜木 エースもなく、スマッシュもなく、ただただラリーでしたね。編集者がネットになって私たちを分断し、それを上手にずらしながら、「ハイ、今度はこっち」って(笑)。編集者は大変だったと思いますよ。最初に文章を書いて、そこに絵が入ってきて、そうすると私が文章をざっと変えて。よーく考えたら「1回会えば済むのでは?」と思うんだけれども、そのたびに編集者が「直していいよ」「まだ時間あるから、大丈夫だよ」って。その「いいよ」「大丈夫だよ」というのは、まさにこの絵本が言いたかったことではないかと、今頃、私は気がついてるんですけれど。まぁ正直、「1回ぐらいオザワさんに会わせてくれたっていいじゃないか!」とか思ったことも多々ありましたけど(笑)。

オザワ でも私、最初から桜木さんと直接やりとりさせていただいてたら、たぶん今の絵には行き着いてなかった気がします。最初からちょっと遠慮してしまって、何となく自分を引っ込めながら作業したままだったかもしれないなって。

桜木 えっ、そうですか?

オザワ 桜木さん、本当に素敵な方で、リスペクトしてるので、私はきっと無意識に桜木さんに寄せてしまってたと思うんです。でも、ふたりが同じ景色を見過ぎてしまうと、そこで作品は閉じてしまうと編集者さんがおっしゃってました。

桜木 私は東京に行った時に、まだ文字が入っていない、絵だけのものを見せてもらって「これはオザワミカのイラスト集だ」と思ったの。そこから、文字がこの絵をじゃましないことを心がけました。

オザワ 私も、自分の絵を描くと決めた後もずっと、桜木さんの言いたいことや言葉をじゃましないようにって思っていました。

桜木 ずっとベストな1行を切り取って描いてもらっているなという気がしていました。

オザワ あんまり絵を描き込んでしまうと、桜木さんの言葉がぼやけちゃうし、読む人に自分の家とか部屋を想像してほしいというのもあって。とにかく、いろんな人の邪魔をしないようにと思っていたんです。ただ、削り過ぎると、何にもなくなっちゃう。今の状態が、けっこうベストな感じがしています。

桜木 想像してもらうというのも、絵本の仕事のひとつなんですよね。小説家は、説明にならないようにどう描写するかを仕事にしてるんだけれど、今回、描写はオザワさんがやってくれるから、私はしなくていい。となると、何が残るんだろうと考えたら、その人たちの性格やポジションにおける想いとか、それまで積み上げてきたものが言わせる一言で。絵本というのは、そうなっていくジャンルなんでしょうか。小説とは、求められるものが違うし、私たちが使う脳みそもたぶん違うと思う。この 1 冊で学んだことは大きいです。

言葉と表情、ベストな表現を探して何度も手直しを繰り返したおふたり  ©️桜木紫乃 オザワミカ/集英社
言葉と表情、ベストな表現を探して何度も手直しを繰り返したおふたり  ©️桜木紫乃 オザワミカ/集英社
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オザワミカ

愛知県出身。イラストレーター。書籍や雑誌のイラストや演劇の宣伝美術をおもに手がける。人との関わりについて考えることが好き。2010年の漫画家・江口寿史氏との2人展「reply」(リベストギャラリー創/東京吉祥寺)など展示活動多数。
2019年リボーンアートフェスティバル青木俊直展ディレクター。フリーブックレット『BOOKMARK』(金原瑞人氏発行)イラスト・デザイン担当。

桜木紫乃

桜木紫乃(さくらぎ・しの)
1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で「オール讀物」新人賞を受賞。07年に同作を収録した単行本『氷平線』を刊行。13年『ラブレス』で島清恋愛文学賞を受賞。同年、『ホテルローヤル』で第149回直木賞を受賞し、ベストセラーとなる。他の著書に『起終点駅 ターミナル』『無垢の領域』『蛇行する月』『裸の華』『緋の河』など。20年『家族じまい』で中央公論文芸賞を受賞。21年3月刊行の、著者初の絵本『いつかあなたをわすれても』も好評を博している。

撮影/露木聡子

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