2021.2.20
「心にお水をあげている感覚に」川村エミコさんを救った茶道エッセイ
今回、愛読書を紹介してくれるのは、初のエッセイ集『わたしもかわいく生まれたかったな』が好評発売中の川村エミコさんです。
川村さんが「悩んだ時、立ち止まった時、心を溶かしてくれる」という1冊とは……。
(構成/よみタイ編集部)
まえがきで涙がボタボタと
私を救ってくれた一冊は森下典子さんのエッセイ『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』です。樹木希林さんが出演されて映画化もされています。
初めて読んだ時、まえがきで涙がボタボタと溢れてきました。「長い目で、今を生きろ」と締め括られたそのまえがきは、ギュッと、何かの我慢でなのかなんなのか、動かなくなって固まっていた心の外側をペリペリと剥がしてくれて、心が溶けていきました。溶けて、目から涙が溢れてきました。
「その時、その時でいいんですよ。」「きっと気付いていくことがありますよ。」「慌てず慌てず、そのままでいいんですよ。ゆっくりじっくり行けばいいんですよ。」と言われている気持ちになりました。
森下さんがお茶を習い始めて学んだことが書かれているこのエッセイは、スッと身体に染み込んで来ます。食べ物で言ったら、添加物や合成着色料が一切合切入ってない感じです。オーガニックです。
その時のその風、空気、気持ちを淡々というよりトントンと言ったほうがニュアンスが近いのですが(森下さんのちょっとした明るさのようなものがトントンという音に合うのです)トントンとゆっくり綴られています。媚びてないです。決めつけず、ただただ書かれています。そこがとても好きです。
感じ方は自由ですからね、とも言われている気がします。行間に奥行きがあって、心にお水をあげている感覚になるのです。
そして、森下さんのお茶の先生のひと言ひと言は、心にとても響きます。
「頭で考えず手に聞くこと」「今、ここにいるということ」「無」の話、「聴雨」そして「日日是好日(毎日がよい日)」。
お茶を習ったこともないですし、お茶のことは何も分からないのですが、読了すると日々の生活がかけがえのないものになります。白黒の日常は白黒のままですし、セピア色の日常はセピア色のままで、彩りが出るわけではないのですが、白黒は白黒のまま、セピア色はセピア色のまま愛おしくなります。
現在悩んでいることや今までの後悔を、森下さんがお茶を通して気付いたことを綴った文章が、洗い流してくれます。
「あー私もこんな風に過ごしたい。」「季節を感じて過ごしたい。」と強く思います。