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ワンオペ育児中の母親が陥った、ママ友ストレスからのアルコール依存

お酒を飲み始めるタイミングはいつ?

 飲酒をいつから始めるかというのは非常に重要です。日中働いている生活パターンの人にとっては、基本的には夜が適正な飲酒時間です。
 しかし、子育て中の母親の中には、ママ友に会うと緊張するので、その前に緊張を和らげて気分を上げるために、1杯飲んでから行くというケースもあります。集団適応のために飲酒するようになると、今度は朝から、夫が仕事に行ったらすぐ飲み始め、子どもを幼稚園へ送る8時ぐらいまでの間に1本飲み終える。それから、幼稚園へ送りに行った後、さらに迎えに行くとき、またママ友に会うので飲む。そうなると、一日中だらだらと飲酒していることになってしまいます。
 本人は駄目だとわかっているのですが、ストレスや対人緊張を和らげるための対処行動、つまり「コーピング」としての飲酒を覚えてしまうと、やめることが難しくなります。お酒を飲むことによって、育児のつらさやママ友との付き合いの煩わしさを紛らわすことができるからです。本来は、例えば自分の両親や夫の両親に助けを求めるという選択肢もあるはずなのですが、遠方のためそれができないと、さらに孤立してしまいます。
 
 ママ友というのは、非常に特殊なコミュニティだと思います。2~3歳から小学校に入るぐらいまでは、親が子どもと一緒に同じ空間にいなければならない時間がとても長くなります。そこで、同じ境遇の女性同士が動物の群れのように集うようになります。子どもが幼稚園や保育園を卒園したら離れ離れになりますが、それまでの限られた期間は付き合わざるを得ない。おそらく人によっては特別なコミュニケーション能力が必要となってくるでしょう。
 そのコミュニティでは、大抵「〇〇ちゃんのお母さん」という呼び方をされ、子どものことをメインで何時間でも話さなければいけない。自分の考えや気持ちを主張することはあまりせず、他人のことにも立ち入らず、相手の気分を害さないように気を遣い、なるべく穏便に付き合う。
 たとえ自分はママ友がいなくても平気と思っても、そのコミュニティで仲良くできなければ、子どもも同年代の友達との付き合いをすることが難しくなってしまいます。「まるで子どもを人質に取られているようだ」と言う人もいます。
 そんな中でも、夫が育児に協力的であれば、まだ抜け道はあるかもしれませんが、非常に忙しい人だと、妻の変化になかなか気づきません。夫が朝早く出勤して帰りが遅ければ、二人がゆっくり顔を合わせる時間は休みの日しかなく、結局、お酒の問題に気づかれないことが多いのです。妻がゴミ出しをしていれば、大量のストロング缶の空き缶があったとしても、夫は目にすることがありません。

 完璧主義のAさんは、周囲に相談するのが苦手で、ママ友や夫、自分の両親にも育児のストレスについて話すことができませんでした。誰かに相談し頼ることは、アルコールに限らず、依存症の治療の第一歩です。もし自分も誰かに頼ることが苦手だと感じていたら、どんな小さなことでもいいので、身近な人に意識的に相談するようにしてみましょう。

(編集協力:西野風代)

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斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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