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「進研ゼミの漫画」と「不倫体験談」に共通する物語のパターン? なぜ人間は類型的なストーリーに魅かれてしまうのか

体験告白創作講座

単純な物語はシンプルな部品の組み合わせでできています。例えば、わたしは嘘の体験告白をどのように書いていたのか? 共通部分は、女性がよく知らない男とどこかで会って激しくセックスする、それだけです。なぜ夫婦や決まった恋人ではなく、名前も知らない相手との方がエッチな感じがするのかはよくわかりません。次に女と男の職業などを決めます。女なら都会の有閑マダム、新人婦警、看護士、スッチー、女医さん……、男なら童貞大学生、イケメンホスト、頭のハゲたおじさん……、なんでもいいのですが、ポイントはわかりやすく記号的なキャラクターにすることです。複雑な内面やリアルな性格はいりません。あとは二人をどこで出合わせセックスさせるか。できるだけ奇抜な場所が好ましいので、飛行中の航空機のトイレとか、道を尋ねに入った交番とか、滑走しているジェットコースターとか。そんな場所でセックスが可能なのか問うてはいけません。リアリズムは求められてないのです。

結局これらのパーツを順列組み合わせするだけで、いくらでもストーリーが作れます。知的作業としては、CoCo壱でカレーに何をトッピングするか、ライスの量と辛さをどれくらいにするのか考えるのと大して変わりません。

ネットを漂う無数のストーリーも、パーツの組み合わせである点では一緒です。「公金チューチュー」という「詐欺的なやり方で助成金や補助金を受け取る」ことを意味するネットミーム(流行り言葉)があります。この「公金チューチュー」を軸に、一方にNPO団体、性的マイノリティ、学術団体、少数民族などを、反対に国や自治体、その他の公的機関を組み合わせれば、たちまちけしからん連中が我々の税金を「公金チューチュー」しているというストーリーを作ることができます。実情とずれているとか、エビデンスがないと指摘されたら、多少組み合わせを変えればいい。知的作業としては、CoCo壱でカレーに(以下略)。

しかし多数の人がこうしたストーリーを面白がって拡散すれば本気で信じ込む人も出てきます。

絶えず、増殖し、変異しながらネットの海を漂う無数の物語。ではその中の危険なウイルスに感染することなく、私たちはどうやって生きていけばいいのか? 後編ではネットのものとは違うタイプの「物語」について考えてみます。

 後編は1/25(木)公開予定です。

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倉数茂

1969年生まれ。大学院修了後、中国大陸の大学で5年間日本文学を教える。帰国後の2011年、第1回ピュアフル小説賞「大賞」を受賞した『黒揚羽の夏』でデビュー。18年に刊行された『名もなき王国』で第39回日本SF大賞、第32回三島由紀夫賞にダブルノミネート。

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