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スズキナオ「この世の隅っこの「むう」な話」

なぜ友人の家には1リットル入りの醤油が2本あるのか

友人の話を、それから何度も頭の中でたどり直してみた。
いったいなんなんだろう、この些細な、取りに足らないような、でも魅力的な話は。

爆笑エピソードでも、泣ける人情話でもない。
「むう」とうなるしかないような、暮らしの中の小さな話。このような話を、ひょっとしたら誰でも持っているのではないか。
私はそんな話を集めてみたいと思うようになった。

ところで醤油の正しい収納場所は果たしてどこなのか

それにしても、1リットル入りの醤油ボトルは、サイズ感からしても冷蔵庫の中で目立ちそうなものである。
改めて友人に聞いてみると、「うちの冷蔵庫って野菜室が結構広いんだけど、そこに立ててしまってあったんだ。だから開けるたびに見えるのは醤油のボトルの上の部分だけなのね。それで見落としていたんだと思う」とのこと。
なるほど、野菜室にしまってあったのか(というか、そもそも醤油は冷蔵庫にしまうべきものなのだろうか)。

「せめてドアポケットのところにしまっておけば見つかったかもしれないよね」と私。
「ああ、そこに入れてたら気づけてたかもね」と友人。あまりに今さらな会話である。

幸い、2本の醤油の賞味期限はどちらもまだまだ先で、頻繁に自炊していれば余らせる心配はなさそうだという。友人の部屋にある2本の醤油のことを想像しながら、私はもう一度意を決して立ち上がり、うちの冷蔵庫のドアを開けた。

とりあえず賞味期限がとっくに切れたもみじおろしとかんずり、いつのものだかわからない目薬を取り出す。
「これだけ捨てよう。あとは明日の自分にパス」と、そう思いながら勢いよくドアを閉めた。

(了)

一口に醤油といってもいろいろだ。ここにもやはり人それぞれの生活がある
一口に醤油といってもいろいろだ。ここにもやはり人それぞれの生活がある
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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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