2026.2.25
「なぜ関西人は東京でも関西弁をしゃべり続けるのか?」という問いの深層にあるもの【こんな質問が来る 第5回】
「東京に来たら標準語を喋るべき」は否定したい
では、どのような人が「関西弁をしゃべる人」を嫌っているのだろうか。
たとえば、東北大学を拠点とした二人の方言学研究者による著作『ものの言いかた西東』(小林隆・澤村美幸)では、関西人の僕としては衝撃のこのようなエピソードが紹介される。
「東日本大震災の被災地支援のために全国から大勢のボランティアが集まったが、関西弁を話すボランティアに対しては警戒心を抱いて口を開かない被災者がいたという」
これは手厳しい。関西人への悪口が大好物な僕でも、さすがにたじろぐ「関西人ぎらい」の実態である。
この『ものの言いかた西東』では、方言とは単に語彙の問題だけでなく、言語を介したコミュニケーションのあり方そのものを包括する概念であると指摘される。そのうえで、感情的な表現を好むのか客観的な表現を好むのか、直接的な表現を好むのか間接的な表現を好むのか、会話を作為的に盛り上げることを好むのか否か。それらの会話の作法とでもいうべき傾向の違いが分析されるのだ。
そして、それらの分析軸に各地方の方言を配置していくと、関西弁の対極に位置するのは、実は東北弁なのである。これは良かれと思って話しかける関西弁話者の会話のことごとくが、東北弁話者にとっては、好ましくない不作法なもの、つまりは「嫌なもの」として受け取られてしまうということを意味する。
これは、歴史的に中央として各地から人の流入が絶えなかった近畿の都市的な社会環境と、中央からの距離ゆえに周縁として文化的な独立世界を形成してきた東北の農村型社会という、政治的・経済的な背景のちがいによるものだと考えられるという。そして、まるで関西弁のライバルかのように言われてきた関東弁、つまり首都圏方言はその両者の中間の性格を持つというのだ。
沈黙を尊ぶ東北人と沈黙を恐れる関西人。そんな相容れない二者が出会う場所。東京とは火花が散る文化の戦場なのだとあらためて思い知らされる。
でも、口くらいは開いて欲しい……(とにかく沈黙が怖い)。
このように考えると、関西人が東京で嫌われても「知らんがな」と平気な顔をしていられる背景はこのような歴史的・文化的経緯を抜きに語ることはできないだろうし、東京で郷土の言葉を話さない人々が関西人を「ズルい」と思ってしまう背景についても同様であろう。
たとえば関西出身のラッパーたちはここぞというパンチラインに関西弁を使って韻を踏む。いちばん大事なメッセージは自分の“リアル”な言葉で加速させないと壁の向こうまで届かない。そのことをもっとも敏感に感じているのは彼らかもしれない。
「東京で関西弁をしゃべり続ける関西人はズルい」という時、その「ズルさ」は単に東京ゲームの通過儀礼をパスして楽をしているというだけではない。東京という街でも機会を捉えて不意に繰り出される生身のパンチの打撃力が「ズルい」のである。良かれあしかれ、東京という街で他の地方の人が持っていない「ズルい」カードを一枚持っているという点なのだ。
しかし、そのような「ズルさ」を踏まえてもなお、質問箱に寄せられる関西人への悪口にうんうんと相槌を打つ僕は、ある一点だけはきっぱりと否定するようにしている。それは「東京に来たならば誰しも標準語を喋るべきだ」という意見である。そんなもったいないこと言うなよ、と何度も諭す。あきらめずに何度でも。
もう半世紀ほど前になるが、若者が大人の手を介さずに自分たちの音楽を発信し始めた時代のこと。経済発展に邁進する日本社会に置き去りにされた怒りと恨みを、叩きつけるように東北弁で歌うフォークに注目が集まったことがある。パンク前夜のその強烈な破壊力に、東京をはじめ、全国の音楽ファンが度肝を抜かれて刮目した。その衝撃は、東京出身の某有名アーティストがこっそり東北出身を偽装しようとしたなどという都市伝説さえ囁かれたほどである。あの手この手で日本社会のケツを蹴り上げようとしていた当時のアーティストたちにとって、「東北弁で歌う」とはそれほどの攻撃力を持つ表現だったのである。
関西弁は放送メディアの時代に地場のお笑い文化を全国に流通可能なコンテンツに仕立て直すことで、東京でも「通用」する言葉となった。そして、いま、テレビほど東京一極集中の世界ではないインターネットでは「標準語」以外の方言をキャラクターにする配信者やインフルエンサーなどはもう珍しい存在ではなくなりつつある。
「ズルい」なんて言ってないで、そろそろあなたの血の通ったリアルな言葉でとびきり重い一発をくれないか、といつも思う。
それでも「東京で関西弁をしゃべり続ける関西人」に煮え切らないあなた。
そんなあなたに、生粋の関西人である僕からひとことだけ贈りたい。
大丈夫、安心してください。
あなたが許せない関西人は、きっと地元でも「おもんないやつ」です。
これは、ほんまに、絶対そう。
次回連載第6回は3/25(水)公開予定です。
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