よみタイ

ライジング!

第17回 順調すぎる進捗報告の裏に隠されていた、驚きの実態

小柴が感じていた“異変”

 そんな話をしながら有楽町を歩いていると、小柴が「ここだよ」と言って少し古びたビルに入って行った。
「ここの二階の〝向月台こうげつだい〟って店なんだけどね。過去二回ほど来たことあるんだけど、二回とも貸し切りで入れなかったんだよ。満席ならよくあるけど、貸し切りが二回続くなんて初めてでさ。よっぽど縁が無いんだってテンション上がっちゃって」
「何でテンション上がるんですか!? 変態なんですか?」
「誰が変態だ! 私は至ってノーマルだよ! 飲食店でもベッドでも」
「余計な情報仕入れちゃった……」
 松田がテンションを下げていると、小柴は上階に止まっていたエレベーターを「△」ボタンを押して一階におろした。
「事前に予約取ればいいんだけど、もうこうなったら飛び込みで入れるまで頑張ろうって決めたから、今日も予約は取ってないんだよ」

 ドアが開き小柴がエレベーターに乗り込んだ。松田も少し緊張しながら後に続く。なんだかやけに狭く感じる。ちょっとばかり古いエレベーターのようだ。最新のものは静かに上下するのだが、このビルのエレベーターは上昇前に「行くよ!」とでも言うように「ガタン!」と音をたて、止まるときは「ついたよ!」とで言うように「ガッタン!」と鳴った。
 松田がエレベーターを降りるとすぐに、店の賑わいが聞こえてきた。すぐに店内が一望できる作りになっているのだが、どうやら貸し切りの雰囲気ではない。とはいっても、席が空いているかも微妙だった。
「二人だけど行けます?」
 小柴が気合いを入れた様子で尋ねると、女将らしき人が笑顔で言った。
「どうぞ~。何度も足運んでもらってすいません。カウンターでよろしいですか?」
 二回入店を断っただけなのに、既に小柴の顔は覚えているようだった。
「勝った……やったぞタイヨー。なんかもう満腹な気分……」
 恍惚の表情を見せる小柴について行き、松田も店内へと入って行った。

 カウンターに座ると、正面は格子状の棚になっており、そこに日本酒や焼酎がズラリと陳列されていた。カウンターに座った人は、メニューを見ずとも好きなお酒を注文できるので便利だ。
 布地の厚いおしぼりで手を拭い、メニューを開くと細い毛筆で書かれた味のある文字が踊っていた。棚のお酒が整然と並んでいたのに対し、メニューは自由気ままに書いたような印象だ。オススメには赤い丸がついている。
「わくわくする系のメニューだな」
 おしぼりの上にスマホを伏せて置き、小柴が目を輝かせる。固い机の上に置くとバイブ通知の時に大きな音がするので、小柴はいつもこうするのだ。

 すると店員さんがカウンターの向こうから笑顔で声をかけてきた。愛嬌満点の女性店員さんだ。
「一杯目何になさいますか?」
 その問いかけに、松田は居心地の良さを感じた。お正月に実家で、お雑煮のお餅を何個食べるかを母親に問われたときの様な雰囲気だ。店員さんの声色と笑顔に、松田は底なしの安心感に襲われていた。
「生ビールにしようかな……コシさんどうします?」
 生ビールは店によって味のばらつきがあるから頼むのが怖い。以前そんな話を小柴としていたので、松田は一度お伺いを立ててみた。
「じゃあ生二つで」
 小柴は生ビールを試す気になったようだ。
「何食べよっか。ポテサラは行くでしょ。お刺身もいただこう。……あ、ハムカツあるじゃないの! タイヨーは何か食べたいのある?」
「オニオンスライスと鶏の塩焼きですね。あとは……豚の生姜焼きもいいですか?」
「いいもん選ぶじゃない」
 あらかたの注文が決まった所で、店員さんが生ビールを持って来た。

「乾杯!」
 冷えたタンブラーを口に運ぶと、まずなめらかな泡が唇に当たった。続いて冷えたジョッキのフチの感触が来る。そのままタンブラーを傾けると、泡の下からキンキンに冷えたビールが押し寄せてくる。松田は舌の上にそれを通過させて一気に喉に流し込んだ。仕事終わりの火照った体には、冷えた液体をガバッと体内に入れたい。だから人はとりあえずビールを頼むのかもしれない。
「ああうまい!」
 この店の生ビールは味も香りも申し分なかった。ビールサーバーが丁寧に洗浄されているようだ。小柴も満足そうに頷いている。
 注文を終え、料理が来るのを待っている間に松田は今日の打ち合わせで気になったことを小柴に聞いてみた。
「コシさん打ち合わせの最後の方ずっと黙ってましたけど、何か考えごとでもしてたんですか?」
「ああ。まあね。タイヨーは開発状況のことをどう思う?」
「ん~、かなり順調じゃないですかね。毎週ちゃんと報告も貰えてますし」
「そこなんだよな……」
 小柴は眉根を寄せて意外なことを言い出した。

(以下、次回に続く)

 連載小説「ライジング!」次回は5/21(金)公開予定です。お楽しみに!

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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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