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ライジング!

第17回 順調すぎる進捗報告の裏に隠されていた、驚きの実態

モックアップ画面に大興奮する太陽

 一月末、照鋭社での定例打合せの場に、氷上が打ち合わせにモックアップを持って来た。モックアップとは、ネット通信を介さずに動かす、いわばテストバージョンのようなものだ。
「こんな風に動かすことを想定しています」
 氷上はタブレット画面を見せながら、画面デザインやインターフェースを松田たちに見せていった。
「めっちゃいい感じにできてますね」
 松田は喜びの声をあげた。インターフェースは漫画アプリの肝。プログラミングに入るまでの打ち合わせでしっかりと話し合って決めた部分なので、想定通りに動いているのを見ると感慨もひとしおだ。
 すると、じっと腕を組んで画面を見ていた野島が口を開いた。
「配信する漫画作品を入稿する管理ツールも見たいですね」
「管理ツールですね……えっと、少々お待ちください」
 氷上はそう言ってスマホを持ちながら会議室の外へと出て行った。打ち合わせで彼が初めて見せる慌てた姿だった。
「もしもし! 管理ツール周りはできたのか? ……まだ!? 何やってんだ! 言い訳するな! お前に任せたんだからしっかりやれ! いいな!?」
 ドアのすぐ外で通話しているので、電話の声はしっかりと聞こえてきた。松田は、もう少し離れた場所で通話すればいいのに……と思いながら聞いていた。
「すいません、ちょっと担当者の作業が遅れてまして……」
 会議室のドアを開けながら、氷上が申し訳なさそうにぺこぺこ頭を下げた。
「時間はたっぷりあったのに、どうもサボり癖のあるヤツで」
「そうですか……管理ツールの使い心地はぜひとも知っておきたかったんですが」
 野島が残念そうに言うと、氷上は今一度頭を深く下げた。
「申し訳ないです!」
「まあ一つここは踏ん張ってもらって、なんとか間に合わせましょう!」
 会議室の空気が重くなったのを見て、菅が明るい声を出した。いつもなら小柴も追随して冗談の一つも言うところなのだが、彼は珍しくじっと黙っている。その姿が、やけに印象に残る松田だった。

電話の会話は、予想以上にいろんな人に聞こえているもの
電話の会話は、予想以上にいろんな人に聞こえているもの

 その日の夜、松田は小柴に飲みに誘われて有楽町に来ていた。小柴と飲むのはかなり久しぶりだった。
「タイヨーここ最近数か月、全然飲んでくれなかったからな」
「すいません。ちょっと忙しくて……」
「忙しいときやピンチのときほど飲みに行くんだぞ」
「あと個人的に禁酒もしていたんですよ。大学の同期と飲んだ時に記憶なくしちゃって。そっから反省してしばらく酒は控えようと……」
「ペースと酒量を守んないからだな。記憶なくすと飲んでたときの楽しさも消えちゃうから損だぞ」
「気をつけます」

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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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