2026.3.24
自分自身として生きたい……トルコに残した家族を思いながら、フィンランドで新しい人生を始めようとするクルド人のムハンマド(第5回 前編)
「今は、ヘルシンキ近郊のエスニック食材の店で働いている。割り増し手当があるから週末もたまに入る。叔父家族が近くに住んでいて、たまにご飯を食べるよ。仕事ではフィンランド語を使うことが少ないけど、まだ勉強したいから、仕事のあとに語学カフェに行ったり、チェスをやるところでフィンランド人たちに交じって指したりもするね」
と話すムハンマドは、夏には家族がトルコから来てくれて、2年ぶりに家族で再会できたとうれしそうに教えてくれた。成長した子どもたちと散歩したり、日帰りで出かけたり、妻の手料理を食べたり、自分が料理をふるまったりと1か月間を楽しく過ごした。そしてその後は寂しくなった。フィンランド政府に難民申請をしていたが不認定とされ、再申請の手続きをした。きっと春までには結果が出るだろうという。
「結果を待つしかないのがストレスだ。フィンランド語の勉強はあまりできていないけど、スーパーに来るお客さんたちが英語を使うのでそっちの勉強にはなっているね」
彼は、ぽつりぽつりと英語も交えて話した。
「トルコで僕は、自分が思っていることを話すことができない。もし不用意な言葉をもらせば、仕事を失うか、逮捕されるか。でも自分は、自分自身でありたいと思うんだ。だからトルコを出てきた。経済的な理由じゃない。自分の人生をここで新しく始めるつもりなんだ」
トルコでは、エルドアン大統領の最大のライバルと見られていたイスタンブールの市長が汚職の疑いで起訴されたり、他の市長たちが逮捕されたりしている。2016年以降、政治家だけでなく、大学や学校教員、ジャーナリストなど様々な人たちが逮捕されたり、12~16万人もが職を失ったりしているという報道もある。
「子どもたちと話すといつも、パソコンの画面の向こうで泣いている。パパ、どうして一緒に暮らせないの? いつ帰ってきてくれるの? どうしてフィンランドにいるの?って。政治のことで心配をかけたくないから、自分はトルコに帰るのが難しいというのは子どもたちに話していない。『こっちで給料のいい仕事があって、パパは忙しいんだよ』という。子どもたちは『パパ、お金なんて大事なことじゃないよ。一緒に暮らしたいよ』という。わかってる、お金じゃないんだよ。でもそう答えるしかない」
最初は難民申請が認められたら、大学に入って家族と暮らそうと考えていた。けれど、2年がたっても先が見えない。
「今すぐにトルコの政治を変えることはできない。自分でできることはすべてやるけれど、今は難民として認定されて滞在許可が得られるかどうか結果を待つ以外に、どうすることもできない。僕の親戚も僕を助けられない。それがストレスで辛い」
「すべてのミツバチにそれぞれの仕事があって、調和の中でうまく回っているのを見て安らぐ」と言っていたムハンマドには、自分の果たす役割が感じられないのも辛いのかもしれなかった。
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私は、少しでも共通するところがあればと思って、
「そっか、それはきついね。私も滞在許可が切れたまま、ヘルシンキで延長申請の結果を待っていた数か月が本当にストレスだったから、その気持ちわかると思う」
と言ったが、「ううん、違うね」とムハンマドにやんわりと否定された。
「あなたはもし滞在許可が切れて日本に帰ったら、何が起きる?」
「いや特に……何も起きないかな……まず仕事を見つけないとだけど」
「僕はそうじゃない。トルコに帰ったら反体制派のテロリストとして投獄されてしまうかもしれない。投獄を免れても、仕事に就けない可能性が大きい」
「……全然違うね」
「だから、それが理由だよ。なぜ僕が国を出てきたのか、なぜフィンランドの言葉を必死で勉強するのか」
「そうだね。なぜあなたがすぐに話せるようになったのかわかった。あなたはクラスの後でもずっとフィンランド語を使っていたし、語学カフェでいっぱい話そうとしていたし」
「うん。そういえば」と彼は言った。「最近、僕の住んでいるエリアで、日本人をよく見かけるようになった。語学カフェでも5,6人の日本人に会ったけど、全員が若い女性だよ。なぜなんだろう」
(連載の文中の肩書や組織、値段や為替レートなどはそれぞれ2025年時点のものです)
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第5回後編は2026年4/14(火)公開予定です。
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