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あえて”怪奇現象”を体験したい人はぜひ⁉ 日本百名山へも登りに行ける「空木平避難小屋」【山の名&珍プレイス 第1回前編】

登山といえば、目的地はやはり山頂? いや、山頂以外にも目指すべきおもしろい場所はたくさんあるのです! それは、怪奇現象が起きる不思議な場所だったり、ユニークな逸話がある名所だったり、見たこともない大木や不思議な形をした巨岩だったり……。
本連載では、アウトドア雑誌や山登りの指南本、TV番組や各種イベント出演でもおなじみの山岳ライター・高橋庄太郎が、豊富な山経験をもとに、自分の足でわざわざ見に行く価値がある、こだわりの山の名スポット・珍スポットを紹介していきます。

連載第1回は、勇壮な山容を誇る日本百名山・空木岳(長野県/駒ケ根市)の道中にひっそりと佇む、噂の心霊スポット…。前編と後編に分けてお届けします。

バナー・本文写真/著者提供

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山好きなら知っている? 「出る」「起きる」で知られる深山の小屋

 山といえば、怪談話がつきものだ。山中では遭難などでたびたび悲惨な死者事故が生じ、なかには行方不明のまま見つからなかったり、発見されても白骨と化していたりもする。人知が及ばない大自然の中には魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこしているイメージも強く、“目に見えないもの”への恐怖心にとらわれても仕方がない。実際、多くの登山者がいっしょに寝泊まりしている山小屋(管理人常駐)でも夜が怖いという人は多く、ましてや泊まる人が少ない避難小屋(無人小屋)や野外に張られたテントではとても眠れないという人は珍しくないのだ。

 僕自身は霊感のようなものを持っているわけでもなく、そもそもが信じてもいない。それもあってか登山者であふれた山小屋はもちろんのこと、真夜中の山中のテント内でもまったく怖くはない。しかし、小さな避難小屋にひとりで泊まるのは、あまり得意ではない。人はいないのに、人の気配というか痕跡だけは濃厚で、なにか“念”のようなものが沈殿しているように感じられるからだろうか?

 日本の山には、“出る”ことで有名な避難小屋がいくつかある。そのなかでもとくに有名な避難小屋は2ヶ所で、ひとつは北アルプスの滝谷避難小屋だ。日本有数の険しい岩場を持つ穂高連峰ではクライマーの滑落事故が多く、とくに滝谷と呼ばれるスポットの岩壁は死亡事故が圧倒的に多いことで知られている。その直下にあるこの小屋は、事故後に回収された遺体を一時的に安置することにも使用されており、“出る”のも当然のような薄暗い雰囲気の小屋なのである。

手前の倒木で少し見えにくいアングルだが、滝谷避難小屋の外観。至近距離に川があり、増水に備えて高台にある
手前の倒木で少し見えにくいアングルだが、滝谷避難小屋の外観。至近距離に川があり、増水に備えて高台にある
滝谷避難小屋の内部。できるだけ明るく見えるように撮影したが、内部はじめっとしていて黴臭い
滝谷避難小屋の内部。できるだけ明るく見えるように撮影したが、内部はじめっとしていて黴臭い

 そしてもうひとつが、今回紹介する中央アルプスの「空木平うつぎだいら避難小屋」だ。日本百名山である空木岳の登山の際にも利用できる簡素な無人小屋である。

北側から遠望した空木岳。さすがは日本百名山で、立派な山容だ
北側から遠望した空木岳。さすがは日本百名山で、立派な山容だ
空木岳は美白な花崗岩の山。山頂近くは大小の奇岩で険しく覆われている
空木岳は美白な花崗岩の山。山頂近くは大小の奇岩で険しく覆われている
山頂の標高は2,864m。それだけに悪天時の気象条件は厳しい
山頂の標高は2,864m。それだけに悪天時の気象条件は厳しい

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高橋庄太郎

たかはし・しょうたろう
山岳/アウトドアライター。1970年宮城県仙台市生まれ。高校の山岳部で山歩きを始め、出版社勤務後の2年間の無職時代には国内外のアウトドア旅へ。その後フリーランスのライターとなり、ウェブメディアや雑誌を中心に執筆活動を続けている。近年はイベントやテレビへの出演も多く、アウトドアギアのプロデュースも手掛けている。著書に『テント泊登山の基本テクニック』(山と渓谷社)、『トレッキング実践学』(ADDIX)、共著に『“無人地帯”の遊び方』(グラフィック社)など多数。

Instagram: @shotarotakahashi
Facebook: @shotarotakahashi

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