2018.10.30
″何をしていいか思いつかない″という人へ
「読んだだけで終わり」になりがちな仕事術・自己啓発書
Amazonの自己啓発書や仕事術のレビューを眺めると
「だから? という感じ。具体的に今日から何をすればいいかが書いてない」
「書いてあることは理解できるが、実際に今日からどうすればいいのかが書かれていない」
なんて批評を度々見かけます。
「PDCAを回せ」「お金を意識するな」「時間は効率的にこう回せ」などなど、方法論は書いてあるけれど肝心要の具体的な一歩目が書かれていない本が多い。そのため何をすべきか迷ってしまい、結局「読んだだけで終わり」なんて人も。
しかし実はこれ良書であればあるほど当たり前の話なんです。著者はあなたのコンサルタントではありません。1万人、10万人、100万人と幅広い人に読まれることが前提だからこそ、話を抽象的にせざるを得ないのです。
例えばたまたま手に取った書籍に「あなたの上司の●●さんは仕事が出来ないから従うことはない。左の棚に積まれた取引先の資料をコピーして独立しましょう」なんて書いてあるわけもないでしょ?100人いれば100通りの状況や環境があるわけですから、書籍は誰にでも当てはまるように、抽象的に表現されているわけです。
抽象と具体の正しい理解
「抽象的」という言葉で表現されるとついつい「アバウト」「曖昧」といったイメージをしがちですが、抽象的とはいくつかの具体例の共通点をつなぎ合わせた表現のことです。
例えば私の書籍『ほぼユニクロでうまくいく スタメン25着で着回す毎日コーディネート塾』(集英社)で書かれている主張は、「おしゃれとはドレスとカジュアルのバランスを7:3のバランスにすることである」というもの。具体的な説明は書籍に任せますが、要するにこれは、全ての洋服を「ドレス」と「カジュアル」2つに分類し、ドレス7:カジュアル3になるようにコーディネートせよというもの。これはいかにも「抽象的」です。
「具体的」な指示としては、「ユニクロのこのアイテムのこのサイズのこの色を、GUのこのアイテムのこのサイズのこの色と合わせましょう」というものですが、これだとユニクロが嫌いな人、GUのこのアイテムが好みではない人、テイストが気に入らない人には刺さりません。つまり具体的であればあるほど読者を限定する傾向になるのです。
法則を導き出した「抽象表現」だからこそ、どんな読み手にも対応できるわけです。そして歴史に名を残す良著はいつも「抽象的」です。
例えば経営学の祖であるドラッカーは、「事業は顧客から創造される」と解いています。これはいかにも抽象的です。具体的に言えば「顧客の●●さんが欲しがっているこのTシャツを作れ」ということになりますが、これでは「顧客の●●さん」しか喜びません。
抽象概念を理解することはビジネスの規模拡大に繋がります。自分の顧客を「●●さんと▲▲さん」ではなく「30代独身年収400万程度で地方在住」などの共通項を見つけ抽象化することで、彼らが欲しがっているものを導き出すことができる。顧客をいつまでも具体的に「●●さん」としていたのでは規模が膨らむことは未来永劫ありません。
良著は常に抽象的
こうして「万人に当てはまること」である抽象概念を説くからこそドラッカーは良著なのですが、残念ながら抽象概念は個々の条件や環境に合わせて具体化する作業が必要となります。つまり「読み手のひと手間」が必要なのです。
上記のドラッカーの言葉、「事業は顧客から創造される」も、まずは自分の顧客を定義づけすることから始めなければなりません。考え、自分の状況に当てはめることが必要です。まるで数学の方程式を設問に当てはめるかのように。
これが面倒くさいからこそ、多くの人は具体的な書籍や手法にばかり手を出します。実はこれが失敗の元です。例えば「皇居の周りを走っている人は年収1000万以上の人が多いから、皆で皇居の周りを走りましょう」という提案はいかにも具体的です。一見すると事実のようにも感じますが……しかしながら実際は皇居の周りを走っていても年収は上がりません。10年経っても100年たっても同じこと、足腰の強化は望めても社会的な成長は望めないでしょう。
ではどうすれば良いのか。
それはやはり「抽象化」が必要です。「皇居周りを走っている人は年収が高い」という彼らの共通項を探り法則を探ることです。そこには「皇居を走る思考、余裕、日々の捉え方」などがヒントになってくるでしょう。このことからわかる通りですが、具体的な行動指南は一見、楽で簡単で耳心地がいいものですが、実はそれだけではほとんどの人の何の役にも立たないのです。
「良著は常に抽象的」これを覚えてください。
「自分だったらどうするか」という具体化作業
では最初の話に戻りましょう。
自己啓発や仕事術を学んでも「何をしていいかわからない」という人。
実はこうした人は大変多いはずですが、上記を読んだ後なら理解できるはず。そもそも自己啓発や仕事術は「今日から何をすべきか教えるもの」ではないのです。
何をすべきか教えてほしければ、その著者をコンサルタントに雇うしかありません。あなたの条件や環境を理解してもらい、それに合わせて回答をしてもらう……そこには莫大なお金が必要となります。そりゃそうです。上記の通り「具体的」には規模が伴わない、けれど時間は書籍を書くのと同じだけ使ったとする。だったら書籍全体の売り上げをあなたが一人で負わなければならない理屈になるでしょう? だからコンサルタントは高額なのです。具体的なほど規模がなくなるから、その分客単価で補うという理屈が働くのですよ。
しかし何も高額なコンサルタントに頼る必要はありません。自分で抽象概念を具体化すればいいのです。
まず一つは誤解をやめることです。自己啓発書や仕事術は「読めば変わる」ものではありません。絶対に違います。読んで法則を理解した後に「自分だったらどうするか」という具体化する作業が必要なのです。「何をしていいかわからない」と言う人のほとんどはこの誤解から生まれています。
私は「洋服で自己啓発」を自分のサービスとしていますが、上述の「ドレスとカジュアルのバランス」などは抽象・具体の練習にちょうど良いのです。「ドレスとカジュアルのバランスを7:3にせよ」と言われたら、まず多くの人は自分の手持ちの服を分類することから始めます。「この服はドレスなんだろうか」「この服はカジュアルなのだろうか」と。もちろん書籍ではそうした分類の基準も提供していますが、「これをこう合わせろ」じゃなくて「自分の状況や環境に合わせて法則を具体化する作業」をさせるわけです。そうしていくと自分の環境、自分の懐事情で「おしゃれ」を実現できる具体的方法が見つかっていくわけです。
ビジネスも全く同じです。「事業は顧客から創造される」とドラッカーから教わったのなら、まず自分にとっての「顧客」とは誰かを考えます。自分にとっての「事業」とは何かを考えます。そうして法則を一つ一つ具体化する作業が必要なのです。
何もしないで考える時間を作ること
仕事術や自己啓発書を「読んで終わり」にしていませんか?
本当にその本に感銘を受けたのなら、本当にその本を活用したいのなら、一つ「具体的」なアドバイスがあります。
それは「何もしないで考える時間を作る」ことです。
上記の通りですが、「仕事術や自己啓発書」は具体化までがセットです。抽象化された法則だけを読んで理解したつもりになっていても何も起きません。多くの人は、読んだ後にお風呂に入りご飯を食べてビールを飲んで寝て、すっかり忘れて元どおりになるだけです。
そうじゃなくて、読んだら必ず「具体化作業する時間」を確保してみてください。1日1時間でも構いません。お風呂に入りながらとか、ご飯を食べながらとかじゃなくて、机に向かってメモをしながら考える時間を必ず確保してください。
人生のこと、仕事のことを考えるのに「ご飯を食べながら」とかそんなナメた態度でいいアイディアが生まれるわけもないでしょう?
自分の前頭葉をフルに使って考えてください。
「読んで抽象概念を理解する作業」「得た概念を自分の状況や環境に合わせて具体化する作業」、この2つが必要です。
数学だって方程式だけ覚えても設問って解けないでしょ? 実際にいくつか具体例をクリアしないとマスターできませんよね? 「f( x ) = a x 2 + b x + c 」とかの羅列を覚えただけで「もうマスターした」とか言い出すヤツは大体成績悪かったでしょ? そういうことです。
私はセミナーなどをして「何をしていいか思いつかないんです」という質問がくると必ずこう聞き返します。
「何もしないで考える時間を1日1時間でも確保してますか?」と。
そうすると大概の人が「いえ、していません」と答えます。
「考える時間を確保しないで思いつこう」なんて、どんだけ自分の天才性を期待しているんですか、と。考える時間を確保するから「思いつく」のです。「ながら」で思いつくなら、人類全員成功していますよ。
それと1日1時間を1か月続ければ30時間です。丸一日以上考えて考えて、それで一つも答えが出ないなんて人、私は見たことも聞いたこともありません。必ず最低1つはいいアイディアが浮かびます。まずはそれを実行し、改善修正し形にしていけばいいのです。
「何をしていいか思いつかないんです」……シビアに言えばそれは「甘え」です。
検索して答えが出てくるネットの世界に慣れてしまった現代病です。
・・・今回のまとめです。
・「抽象と具体」の関係性
・「具体化する作業」を忘れないこと
・「考える時間を確保せずに思いつこう」なんて愚かなこと
以上を覚えていただければと思います。