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46歳の私から12歳の私へのラブレター 【『クラスメイトの女子、全員好きでした』ATP賞ドラマ部門最優秀賞記念エッセイ】

爪切男さんの同名エッセイを原作としたドラマ『クラスメイトの女子、全員好きでした』が、6月5日に発表された第41回ATP賞テレビグランプリ ドラマ部門最優秀賞を受賞!
今回は、その受賞を記念し原作者の爪さんから届いたエッセイをお届けします。

発表日の6月5日はなんと46歳の誕生日!

 2024年7月クールにて、読売テレビ制作・日本テレビ系列にて放送されたドラマ『クラスメイトの女子、全員好きでした』が、第41回ATP賞テレビグランプリドラマ部門にて最優秀賞を受賞した。
プロデューサー、監督、脚本、音楽など製作に携わってくれた全てのスタッフの皆様、木村昴さん、新川優愛さん、及川桃利くんなど、この作品に素敵な彩りを加えてくださった全ての出演者の皆様、本当にありがとうございました。そして、おめでとうございます。

ドラマの打ち上げでも感謝の言葉を伝えさせていただいたが、また嬉しいニュースが続くとは!
ドラマの打ち上げでも感謝の言葉を伝えさせていただいたが、また嬉しいニュースが続くとは!

 なんという偶然か、受賞が発表された6月5日は私の四十六歳の誕生日だったのだ。思いも寄らぬ誕生日プレゼント。偶然にしては、ちょっと出来過ぎだ。
 誕生日について思いを巡らせてみると、やっぱりある。クラスメイトの女子との思い出がやっぱりある。
 
 小学六年生のとき、その月に誕生日を迎えるクラスメイトに対し、各々が好きなイラストを描いた誕生日カードをプレゼントするという毎月恒例のイベントがあった。
 クラスメイトの女の子が、自分のためにどんなイラストを描いてくれるのか。期待に胸膨らませて迎えた六月の誕生日会にて、クラスのマドンナ的存在であった女の子から手渡されたカードには、イースター島のモアイ像が十体描かれていた。

 なぜ? 私のフォルムはモアイ像には全然似ていないし、モアイ像が好きだなんて公言した覚えもない。おそらく何を描いていいかわからなくなった彼女が、辿り着いた答えが十体のモアイ像だったのだろう。
 だが、その件がきっかけで、私は彼女に恋をしてしまった。あの子が私のことを好きでも嫌いでもどっちでもいい。可愛い女の子が私のためにモアイ像を描いてくれた。しかも手間暇かけて十体も。そのことが嬉しくて仕方なかったのだ。確か彼女は七月生まれだったはず。来月の誕生日会で最高の誕生日カードを彼女にプレゼントしてみせる。
 翌月、カードに描かれた十体のスフィンクスを見て、苦笑いを浮かべるマドンナがそこにいた。モアイ像とスフィンクスを巻き込んだ私の恋はあっさりと終わりを告げたのだった。

 あのモアイ像から三十年余りの月日が経ち、こんな最高の誕生日を迎えることができるなんて。頑張って生きてみるもんだ。私は本当に幸せ者である。

ロケは二度見学に。昨夏、とんでもない暑さの中で奮闘する出演者、スタッフの姿に感動したものだ。
ロケは二度見学に。昨夏、とんでもない暑さの中で奮闘する出演者、スタッフの姿に感動したものだ。

 最後に大人になった私から、クラスメイトの女子へ宛てたラブレターで終わるのが常だった本作に倣い、四十六歳の私から十二歳の誕生日を迎えた私へ手紙を書こうと思う。

 小学六年生の私へ

 十二歳のお誕生日おめでとうございます。あなたは大人になっても、飽きもせず恋を続けます。数え切れないほどの恋をします。恋のようなものもします。魅力的な女の子に出会っては鼻の下を延ばしてばかりの毎日を送ります。大人になってもずっとだよ。びっくりするよね。

 あなたが恋多き理由。大人になった今ならわかります。
 誰にも愛してもらえない自分のような人間は、誰かを愛することしかできない。そんな一種の呪いにかかっていたのだと思います。辛いこともあったけど、沢山の女の子の魅力に気づけたのだから、とても幸せな呪いでしたね。
 
 そして、あなたはおじさんになって気づきます。実は自分は沢山の人に愛されているということに。
 最愛の妻との生活から、自分の作品を心から愛してくれる人たちとの出会いから、その事実に気づきます。いや、気づいていないフリをしていたことを、ようやく素直に認められるようになります。
「クラスメイトの女子、全員好きでした」なんて言うと、キモイって言われることもあるけれど、キモイと言いたくなる気持ちもわかるけれど、私はいかなるときも過去の自分を否定したくない。本当にクラスメイトの女子を全員好きだったあなたが大好きです。

 そして最後に四十六歳の私から皆様へ。
 私のことを愛してくれてありがとう。
 私の作品を愛してくれてありがとう。
 今回の受賞は、私が誰かに愛されていた証として、私の人生をずっと照らし続けてくれる希望の光となるだろう。
 ドラマ「クラスメイトの女子、全員好きでした」に関わってくれた皆様、もれなく全員好きでした。

ドラマ放送時、渋谷駅での特大ポスター前で。主演の木村昴さんと、北村人さんのイラストとパチリ。
ドラマ放送時、渋谷駅での特大ポスター前で。主演の木村昴さんと、北村人さんのイラストとパチリ。
原作者本人も感極まった同窓会シーンを撮影した教室での思い出の1枚。
原作者本人も感極まった同窓会シーンを撮影した教室での思い出の1枚。

TVerでの再配信も決定!

作家・枝松脛男(木村昴)と担当編集者・片山美晴(新川優愛)コンビ
作家・枝松脛男(木村昴)と担当編集者・片山美晴(新川優愛)コンビ

ドラマ『クラスメイトの女子、全員好きでした』は読売テレビ・日本テレビ系のプラチナイト木曜ドラマ枠全10話で放送されました!
今回の受賞を記念し、Tverで再配信が決定!(配信詳細は後日)

また、Huluではオリジナルストーリー「クラスメイトの女子、やっぱり全員好きでした」の独占配信もふくめ全話配信中。

原作の文庫版も大好評発売中!

単行本・文庫・ドラマともに、素敵なイラストは木村人さん。
単行本・文庫・ドラマともに、素敵なイラストは木村人さん。

「よみタイ」連載を単行本化した『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫になりました!
小学校から高校までいつもクラスメイトの女子に恋をしていた。きっと誰もが“心の卒業アルバム”を開きたくなる、せつなくておもしろくてやさしい全21篇のセンチメンタル・スクールエッセイ。
単行本未収録の「マリコは悪魔を信じてる」も収録。解説は作家・鈴木涼美さん!

詳細はこちらから!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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