2019.11.15
特別鼎談「ジェンダーバイアスと表現についての考察」~後編〝表象の中のジェンダーバイアス〟
世界的なジェンダー平等への潮流
宮川 漫画以外でジェンダーバイアスに関して問題だとか気になるメディアはありますか?
小宮 CMはよく問題になりますよね。影響力もありますし。
宮川 CMといえば2019年6月からイギリスで「有害な」ジェンダーステレオタイプの描写のある広告が禁止になったニュース(※2)が日本でも流れました。
楠本 そうらしいですね。この指標を制定した英国ASA(広告基準協議会)のレポートによると、「有害なジェンダーステレオタイプは子どもや若者や大人の選択肢、志、可能性を制限し」「選択肢を狭めることが、社会の不平等に寄与し、経済的にマイナスである」としています。「有害な」とカッコ付きなのは何でもかんでも禁止ではないという意味で、やはりケースバイケースで考えていくとありますね。「広告業界には公共に対する責任があるが、クリエイティヴィティを失ってはならない」とも言っています。ただし、これはイギリスに限ったことではなく、ASAが調査した28カ国中26カ国は既にもうなんらかの対応を実施していたそうです。
小宮 企業の広告であっても社会に対する責任があるということですよね。
さらに言えば、社会の価値観に合わせて表現をアップデートしていくことが、企業の価値を高め、利益を生み出すということもあると思います。
広告ではないですけれど、映画の世界だとディズニーやマーベルはかなり意識的にやっていますよね。昔のディズニー映画は「王子様に幸せにしてもらうお姫様」の物語が多かったのですが、近年ではそれを自分たちでリメイクしながら全く違った物語を作り出そうとしていますよ。
それはやはり新しい物語を作ろうという面もあると思いますが、時代に合わせて売れるものを作っていくというのも当然あると思うんですよね。鶏が先か卵が先かみたいな話ではあるんですけども、時代を作っていこうという部分と、時代に合わせて変えていこうという部分の両方の側面があるだろうと思います。
マーベルでは2012年にコミック『X-MEN』の作中でヒーロー同士の同性婚が描かれて話題になりましたが、セクシュアル・マイノリティの業界も、ある種市場として開拓されている部分はあると思います。たとえば同性愛の人たちも結婚するとなればブライダル業界には新しいお客さんが来て広がるわけですから、様々な形で商業が展開していったりもする。
楠本 イギリスの人気ドラマ『ドクター・フー』のドクターや、最新作の『007』などでは代々男性が演じてきたキャラクターを女性が演じる(『007』については現時点では情報のみ)というのも、バッシングもあった一方、大歓迎も受けましたね。クリエイターの立場からすると、流行は追うものではなく作り出すものですし、どちらにせよ方向は合致しますね。
宮川 世界を見るとそうかもしれませんが、日本はどうなんでしょうか。
そこに経済的価値を見出しているような動きは、まだそんなに見えないような気がします。知らないものは排除しろというような意識がすごく強い気がしますが。