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特別鼎談「ジェンダーバイアスと表現についての考察」~前編〝ジェンダーバイアスとはいったい何なのか〟

特別鼎談「ジェンダーバイアスと表現についての考察」~前編〝ジェンダーバイアスとはいったい何なのか〟

さりげなくちりばめられている些細な無意識のバイアス

小宮 そこで重要なのは、「バイアス」というのが価値判断を含む言葉だと理解したうえで、じゃあなにがバイアスなのかということを考えることだと思うんですよね。

宮川 日本でも「男女共同参画」という言葉を使いますが、その価値判断は公平にというところを目指してはいるんですよね。

小宮 そうですね。特に行政などでは、パンフレットを作るときなんかでも、無意識にお母さんだけが子どもを抱っこしている絵とかを使うような偏りが生じないよう、自治体によってはガイドラインを作ったりして気をつけています。もちろん媒体によって違いはありますが、ジェンダーバイアスに気をつけなければいけないという考え自体は広まってきていますね。もちろん行政と少女漫画では求められるものが違うので、同じ基準で考えられるわけではありませんが。

議論はジェンダーバイアスがかかった表現の問題性へと
議論はジェンダーバイアスがかかった表現の問題性へと

宮川 少女漫画で主流の恋愛ファンタジーは、もちろん夢を見るという意味で全然いいと思うんですけど、結局その先が結婚、その後主婦、それが幸せの唯一の形みたいになると、バイアスだと感じますね。
個々人が差別の歴史を振り返って、知ること学ぶことは大切だと思うんですが、おそらく必ずしも多くの読者が深く勉強するわけではないですよね。だとすれば、若いうちに目にする少女漫画で提示されるという点で「ジェンダーバイアスがかかった表現が問題である」という理解ですよね。

楠本 私が一番気になっているのは、話の主題よりも、さりげなくそこかしこにちりばめられている些細な無意識のバイアスです。それは、「女の子だから〇〇」「男のくせに△△」というようなセリフであったりとか、女性でも男性でも家事労働が得意な人物に対して「女子力が高い」とか「いいお嫁さんになる」と言ったりとか、そういう言葉の積み重ねだったりします。
ただここで、「ジェンダーバイアスのかかった人物が登場する作品」が、「ジェンダーバイアスのかかった作品」とイコールではない、ということも確認させてください。作品にジェンダーバイアスがあるかどうかは、その作品自体が、ジェンダーバイアスのかかった人物や表現を「どう捉えているか」、で決まってくるわけです。ですから、それほど単純に言えるものではなく、例えばそのジェンダーバイアスから解き放たれていく物語であったりする可能性もあるわけで、最後まで読まないとわからないものもあります。
それから時代物などで、その時代に存在したジェンダーバイアスをそのまま事実として描くことも、ジェンダーバイアスのかかった作品であることとは直結しません。
また、全く逆の文脈で、例えば大ヒットドラマにもなったマーガレット・アトウッド原作の『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』は女がそれこそ産む機械として扱われる近未来を描いていますが、これも私が言うまでもなくジェンダーバイアスのかかった作品ではない。それをディストピアとして描いていることは明らかだからです。さすがにこれを誤解する人はいないと思いますが。
だから物語の中では、ケースバイケースで丁寧に見ていく必要があって、もとよりこの設定はダメ、この言葉はNGというような単純な話ではないんですよね。

小宮 文脈をちゃんと考慮したうえでバイアスをなくそうとしていくことが必要だということですね。

後編に続く

※1( 楠 本 ま き note 「 エ ン パ ワ メ ン ト 。 」2019/1/21 )
引用:「主に女性の作家が描き、主に女性の編集者が作っている雑誌が、主に少女である読者にジェンダーステレオタイプを刷り込む、というのは、とても悲惨で、許しがたい構造だと思う。少女漫画は、もっと少女の考え方や生き方を自由にするものでなければ、それは少女に対する裏切りではないか。」

※2 (「ジェンダーバイアスのかかった漫画は滅びればいい」。漫画家・楠本まきはなぜ登場人物にこう語らせたのか)

※3「これまであなたたちが過ごしてきた学校は、タテマエ平等の社会でした。偏差値競争に男女別はありません。ですが、大学に入る時点ですでに隠れた性差別が始まっています。社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています。東京大学もまた、残念ながらその例のひとつです。」上野千鶴子 平成31年度東京大学学部入学式 祝辞より引用

※4 小宮さんが『世界』に書かれていた
「そうした問題を抑圧的に感じている者にとっては、それらは同種の抑圧として経験されうるだろう。(中略)そうした意味的繫がりを感じない人にとっては、表象は『ただの絵』『ただの写真』としか理解されないし、『ちょっとステレオタイプだな』くらいに思っても、ケア労働の問題やセクシュアル・ハラスメントの問題において感じられるのと同種の抑圧がそこで累積されているとは感じないだろう。」
(小宮友根「表象はなぜフェミニズムの問題になるのか」 『世界』2019年5月号)

構成・文/宮川真紀
撮影/齊藤晴香

※本記事は2019年5月に実施された鼎談をまとめ、加筆したものです。

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楠本まき

くすもと・まき
漫画家。1984年、『週刊マーガレット』でデビュー。代表作に「KISSxxxx」「Kの葬列」「致死量ドーリス」「赤白つるばみ」など。最新作「赤白つるばみ・裏」の単行本は2020年春頃集英社より刊行予定。2021年には原画展開催の予定も。ロンドン在住。
Twitter:@makikusumoto

小宮友根

こみや・ともね
社会学者。東北学院大学経済学部共生社会経済学科准教授。社会学(ジェンダー論、エスノメソドロジー/会話分析、理論社会学)を専門とし、刑事司法とジェンダー、裁判員評議の会話分析を研究キーワードとしている。2011年 の著書『実践の中のジェンダー―法システムの社会学的記述』(新曜社)で西尾学術奨励賞(ジェンダー法学会賞)受賞。Twitter:@frroots

宮川真紀

みやかわ・まき
合同会社タバブックス代表。PARCO出版にて書籍編集、2006年よりフリーに。2013年6月、出版社タバブックス設立。近年、『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』小川たまか著、『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』イ・ミンギョン著などジェンダー・フェミニズム関連書の発行を続けている。
http://tababooks.com

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