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UIの上に描かれる 「対話したのかもしれない」 という希望──赤野工作が読む『インディーゲーム中毒者の幸福な孤独』

ソーシキ博士の『インディーゲーム中毒者の幸福な孤独』がいま注目を集めています。
アニメーション作家であり、海外インディーゲームにも造詣の深いソーシキ博士の初めての著書です。

今回、小説家・ゲームレビュアーの赤野工作さんによる、本書の書評を公開いたします!

※小説すばる2023年12月号の書評を転載したものです。

“人から聞く知らない友達の話”

正直に言って、「ゲームの地平から見る現代」だの「プレイヤーの持つ批評性」だの、最初は多少賢そうなことも書いたほうがいいかなと思っていたのだが、本書を一読した上で、なんかしゃらくさいなと思ったのでやめた。この本自体がそんな話は望んでいないように思えたし、なにより一人のゲーマーとして、正直な本だと認めざるをえなかったからだ。

本書は『小説すばる』2021年7月号から2022年10月号にかけて連載されていた『個人的なゲームたち』というビデオゲームについての記述に3篇の書き下ろしを追加した作品だ。所謂“レビュー”ではないだろう。ゲームレビューと呼ぶには開発者を慮る言葉が多すぎて、優しすぎる。かと言って“ガイド”かと言われるとこれも違う。「貴方も遊びましょう!」みたいな押しつけがましさが無いどころか、むしろ「このゲームで遊べて私は嬉しかった」と自己完結してしまっているきらいさえある。“エッセイ”と呼ぶには筆者がゲームに主役を譲りすぎている気がするし、物語を飾る気も無さそうなので“私小説”でもない。強いて言うならゲームとの出会いを書いた“日記”なのかもしれないが……、こうして文字に起こしている時点で、これも随分と勿体ぶった表現だなと思ったので、やめた。

私の知る中でこの本に最も近いものは、“人から聞く知らない友達の話”だ。もしかすると筆者は恥ずかしがるかもしれない、でも実際そうなんだからしょうがない。本書では数々の個人的なテーマを扱ったゲームが紹介されているが、その一本一本が筆者であるソーシキ博士の友人なのだと思えばいい。実際遊んでみたいなと思うヤツもいるし、話を聞くだけで大丈夫かよと心配になるヤツもいれば、顔も知らないけれど好きになれそうなヤツもいる。

あんまりネタバレになってもいけないが……便器で世界を元気づけようとしてるヤツとか、ピカチュウの財布と恋愛したがってるヤツとかね。なにせ友達の話だから、その語り口も論評的ではなく、あくまで個人と個人の関係性の話に終始している。どこかの誰かに届くよう世界へ放たれたゲームと、それを遊ばんとする筆者との、UIを介した対話……と思わしきものの集まり。アイツとはこんな風に知り合ってねとか、アイツ前こんなこと言ってたんですよとか、そんな話が紹介されるゲームの数だけ読めるということだ。

一人のゲーマーとしてもう少し正直になれば、こうしたゲームとの接し方にこそ、ソーシキ博士というゲーマーの在り方が現れていることに言及しておくべきかもしれない。本書のタイトルにもあるインディーゲームとは、一般的に「少人数・低予算で開発されたゲーム」を指す言葉だ。その作品数は膨大。故に私をはじめゲーマーは誰しもそれぞれ好きなジャンルという専門性を持っていると思うのだが、このソーシキ博士というゲーマーは、その専門性が良い意味で無い。「まだ知らないゲーム」に特化していると言い換えてもいい。ストアの新着をチェックしては、まだ誰にも遊ばれていない作品を探し、世界で最初に彼らと対話するのがなにより好きな人なのだ。ゲームの向こうに、人を見ている。

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赤野工作

あかの・こうさく
ゲーマー。カクヨムに連載していた架空のゲームレビューの体裁をとる小説『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』が書籍化され、小説家デビュー。そのほかの共著に『ゲーマーが本気で薦めるインディーゲーム200選』などがある。

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