2025.1.2
「間借り営業」のカレー屋さんが増えている納得の理由!『そこそこ起業』としての〈間借り〉を考える
間借り営業の大きすぎるメリット
「ごちそうさまでした」
これは実店舗が出たら通っても良いな、と思いながら会計を済ませ店を後にしました。私と同じタイミングで入店した人達も、良い食べっぷりで、笑顔で会計をしていましたので同じ感想なのだと思います。
目的のカレーも食べたしこの街には用事は無いと、いつも執筆で利用している新宿の喫茶店までマウンテンバイクを走らせながら、間借りカレーという営業形態について、いろいろと考えを巡らせます。
飲食店で開業を目指すとなると、一般にイメージされる開業までの道のりは長く険しいものです。どこかのお店で修行して皿洗いからはじめて、仕入れから調理、お店のオペレーションまで一通り学びつつ、帰宅すれば自宅で自分のレシピの開発を進める。時にはダブルワークをして開業資金を貯め、それでも足りない資金を銀行から借り入れて、ようやく自分が理想とするお店の開店にたどり着くことが出来ます。
そうやって多くの労力と時間、資金を費やして出店した飲食店の平均寿命は、渋谷で貸ビル業を営む友人の話では概ね半年ほどだといいます(半年を乗り越えて評判を得たお店は10年は続くそうです)。
それだけ飲食の世界は厳しいと考えることも出来ますが、実は「自前の店舗を持つ」ことを前提に努力したからこそ、半年持たなくなっているのではないかと思います。店舗を借り(あるいは購入し)、必要な業務機器を設置し、自分好みに内装を整えた時点で、小さなカレー屋でも数百〜1千万円単位の開業資金が必要になります。そうやって開業資金を費やすほどに、お店が黒字化する損益分岐点は遠くなり、失敗の可能性が高まることになってしまいます。
それに対して、間借り営業であれば、間借りする際の家賃と材料代金だけでスタートできます。おそらく、一日十数食程度の売上が数日続けば黒字が見えるほど、損益分岐点は低くなるでしょう(間借りする店舗の家賃、一皿の販売価格と原価率の簡単な四則演算で黒字のタイミングが分かるのも簡単で良いです)。
そして、簡単に黒字化が見えるからこそ、間借り店主の主は採算が取れる範囲で「美味しいカレーを作って、お客さまに提供する」ことに集中できる。開業前に背負った借金額と戦わなくて済むのが、間借り営業の良さでしょう。
起業に限らず仕事について「若いうちは買ってでも苦労をしろ」と語る人がいます。
しかし、「当たり前に取り組むべき努力」とされているものが成功を遠ざけるどころか、失敗に直結する原因になるなら、無理をして背負う必要はないのではないでしょうか。
「一国一城の主を目指すのだ」という夢や目標から逆算して行動するのではなく、間借りカレーのようにとりあえず「今、やりたいこと(自分のカレーをお客様に提供すること)」を低リスク・低投資ではじめて、少しでも現金収入が手に入るようになれば、余裕が生まれます。間借りカレーは、成功のハードルが上がるのを回避し、余裕を生み出す方法に取り組むことの大事さを教えてくれます。
間借りカレーの主たちが、手にした余裕を将来の開業資金として活用するか、気楽に手に入る現金収入と考えるのかは、人それぞれでしょう。彼らが手にした「余裕」から何を生み出し、どこに向かうのかを見届けるために、もうしばらく下北沢詣でを続けると思います。
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