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「いくら低くても、山は自由だ」— 80代のジジイがすすめる「ゆる登山の極意」【沢野ひとし『そうだ、山に行こう』刊行記念インタビュー】

泣き言の多いジジイたちを避け、山登りは平日に

登るのはもっぱら平日。「土日はジジイの泣き言が多くなるから(笑)」と沢野さん。

「我々シニア登山者は足も脆くなったので、『もう足がもつれる』『あと一歩』『頂上が見えたぞ!』と騒がしく、休日はまわりの登山者に迷惑をかけるんでね。お互い『静かに』が合言葉になる」

かつて歩いた高水三山(高水山799m・岩茸石山793m・惣岳山756m)は、青梅線・軍畑駅からの人気コース。沢野さんは常福院不動堂で手を合わせ、静かに登っていく。

「登山って、信仰に近いんじゃないかな」

グルメや絶景目当てではなく、ただ歩くことに意味を見出す。その姿勢は四国のお遍路に近いという。

福島、新潟、山形にまたがる飯豊山(標高2105m)登山時。
福島、新潟、山形にまたがる飯豊山(標高2105m)登山時。

持っていくのはコンビニのおにぎりと白湯だけ

「山では贅沢しないのが一番」

コンビニのおにぎりとテルモスに入れた白湯。日帰りの低山歩きなら、それだけで足りる。あれこれ欲張っても疲れてしまうだけだからだ。

「白湯はね、体にやさしいんだよ。コーヒーや紅茶は利尿作用があるから、登山には向かない」

温泉に寄らず、酒も飲まず、下山したらとっとと家に帰り、ゆっくりと食事をとる。これが沢野流の“ゆる登山”の美学だ。

「山は、歩いて、帰って、家でうまい飯を食べる」

最近は軽量のボトルや栄養補給食も充実しているが、必要最低限の道具と食で済ませる。山では“身軽さ”と、身の丈にあったルーティンこそが最大の安全装備だと考えている。

年を重ねるごとに、1年が加速していく。70代は1年で老け、80代は1か月で老けるという実感を持っている。
それでも、歩くことはやめない。歩くことで、自分がいま“ここにいる”ことを確かめる。それが沢野さんにとっての登山なのだ。

長野県八ヶ岳連峰の硫黄岳(標高2760m)登山時。
長野県八ヶ岳連峰の硫黄岳(標高2760m)登山時。

沢野ひとし『そうだ、山に行こう』(百年舎)発売中!

自宅近く(町田)の七国山から剱岳、穂高、さらにはスイスのアイガーに至るまで、30編の山行を「思い出の山」、「思考の山」、「別れの山」とテーマ別に章立て。なかでも、齢80を迎えた筆者が亡くなった友を想う「別れの山」には、人生の意味を改めて考えさせられる。

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【プロフィール】
さわの・ひとし/1944年 愛知県生まれ。イラストレーター・エッセイスト。
児童書出版「こぐま社」を経てフリーに。「本の雑誌」では創刊号より表紙絵・本文イラストを担当している。1991年、講談社出版文化賞さしえ賞受賞。
近著『祖父の片づけ』『ジジイの台所』『ジジイの文房具』(いずれも集英社クリエイティブ)の“ジジイ三部作”が評判を呼ぶ。『休息の山』(本の雑誌社)、『人生のことはすべて山に学んだ』『山の帰り道』(ともに角川文庫)など山に関する著書も多い。

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新刊紹介

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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