2024.12.28
【佐久間宣行×三宅香帆 特別対談/後半】20万部超えベストセラーを生み出した二人の仕事術、共通点は?
三宅 私は書き手として、媒体によって自分で記事のタイトルやサムネイルを考えることもあれば、ノータッチのこともあるんです。たとえば「気合い入れて書いたのに、意外と読まれてないな」と思うとき、原因のひとつにサムネイルやタイトルがあったかも、と一人で考えることもあります。
佐久間さんは『ごきげんになる技術』で「自分で仕事する場合も、誰かに仕事を託す場合も、できるだけ仮説検証を仕組み化する」という旨を書かれていましたが、そこもすごく参考になりました。
悩むより仮説検証しなきゃな、と。とくに他人と仮説検証を共有できると、いろんな人の視点が加わり、表現の面白さに幅が広がりそうで、人材も育つし、いいことづくめだと思いました。
佐久間 「テレビ東京」って、他局に比べて小さい会社だからプロモーションが圧倒的に弱いんです。少ないリソースでいかに番組を話題にするかを深く考えていたので、結果的にそれがフリーランスになってからも役立っているなと。
後輩のディレクターで「ReHacQ-リハック-」を立ち上げた高橋(弘樹)さんや上出(遼平)さん、タレントになった森香澄さんなど独立勢はだいたいそうですね。メインストリームの会社出身ではないからこそ綿密な作戦を立てるのがとても上手い。
三宅 テレビの世界でも、いまは個人で戦える人が強いということでしょうか。
佐久間 相対的にメディアが弱体化しているから、少ないリソースを有効利用できる人や、誰も登っていない山を目指した人のほうがうまくやっているかもしれません。アニメ以外は王道の戦い方が無くなってきている印象ですね。
僕の場合は30代前半で「自分らしい仕事のやり方」を見つけましたが、三宅さんは、年齢的にも早い段階から道を定められてますよね。そもそも文芸評論家の道を選んだきっかけは何があるんですか?
三宅 本が大好きで文学部に入ったというと、「作家やエッセイストにはならないんですか?」とよく聞かれます(笑)。ただ、創作物に関しては、すでにこの世に素晴らしいもので溢れているので、読んでも読んでも追いつかないくらいなんです。でも、創作物を語る言葉については「こんなに素晴らしい作品なのに、まだ全然うまく語られていない」とフラストレーションをためることが多くて。昔からよくそう思っていることが、自分の評論の原点かなと。
理系出身の両親からは「文学部だと就職は厳しいんじゃない?」と言われていたし、本の世界は斜陽産業だと物心ついたときからニュースで言われていた。そのため「自分が好きな本の世界と関わっていくには、戦略を考えないといけないっぽいぞ」と高校生くらいから考えていました。
23歳の時に書評家という肩書きで本を出版し、今に至るまで書評や文芸評論の分野でやってはいますが、書きたいものがニッチだし、そもそも書店の書評ジャンルの棚にはお客さんがあまりいない。「本を読まない時代に突入しているのに、本の紹介なんてニーズは無いに等しいだろう」と普通に思いますよね。つまり、好きなことややりたいことは明確だったけれど、いかんせん市場がないところからのスタートでしたね。
佐久間 なるほど。書きたいものはあるから、どうやって取っ掛かりとしての“取っ手”をつけるか? だったんですね。
三宅 どんな取っ手をつけて、読者に見つけてもらうか、今もずっと考えています。一方で同世代の書き手がそこまで多くないジャンルだったから、新しい道を作れたのかな、とも思います。
実は最近、フリーランスとして一人の力だけで仕事をすることに限界も感じてもいて……。仕事で関わる人たちに「この人のために本気で頑張ろう」と思っていただくにはどうしたら? と悩んでいます。
どんなビジネスにも「ごきげん」と「ごほうび」が必要
佐久間 機嫌を悪くしない=「ごきげん」でいることでしょうか。『ごきげんになる技術』にも書きましたが、僕にとってはごきげんでいることは、ニコニコしてテンションを高く保つことではなくて、「メンタルが安定していてブレない軸があること」。
こういう自分が保てると、他人に嫌な印象を与えないから人間関係がスムーズになるし、実際に部下や上司からの信頼を勝ち取っている人も多い。自然と気持ちを向けられるのかな、と思います。
それを前提として、組織やチームをまとめる立場で言うと、大きな仕事の後にはウマい飯をごちそうするようにします。年に一度、年末年始に放送される「ゴッドタン 芸人マジ歌選手権」は、準備から収録、編集、オンエアまで本当に過酷。収録が終わってから打ち上げをやろうとすると、ワクワクできる時間が数日しかないじゃないですか。だから企画が動き出す初期の段階で行きたいお店や食べたいものの希望を募り、お目当ての店を予約しておきます。2ヶ月くらいは心の片隅にちょっとしたワクワクがあるので、何もないよりはうれしいかな、と。
三宅 なるほど(笑)。ゴールの先にある楽しみを共有しておくのですね。
佐久間 真面目な部分でいうと、おこがましいですが、僕から何かを吸収できることがある状態にしておくこともひとつ。そうじゃないと、僕と働く意味がないだろうし、モチベーションも続かないと思うので。
三宅 それは自発的に学んでもらうのか、仕事術を具体的に教示するのか、どちらのイメージなのでしょう?
佐久間 30代前半くらいは、「実際にやって見せればわかってもらえるだろう」と詳しく説明しなかったんです。でも30代後半以降、人を統括するポジションに就いてからは、プロジェクトの狙いはもちろん、決定に至るまでのプロセスまで、全員と共有するようになりました。
そうすると僕がいない場面でも再現性が高まる。価値観までを共有すると、たとえ失敗しても全員の経験値になり、今後の糧にもなります。結果、人が育つし、それぞれが頭角を表すようになりましたね。
三宅 佐久間さんは、まだ世の中に出ていない若手の方や、テレビに呼ばれづらくなった芸人さんなど、キャスティングの面でもニッチな起用をされていますよね。
佐久間 過去に不祥事や過ちを起こしたタレントさんとも仕事をしています。世の中でうまくやっている人より、むしろうまくやれなかった人のほうが多いだろうし、たまたま僕はまだやらかしてないだけで将来問題を起こす可能性だってゼロじゃない。
社会のシステムから外れることは何も特別じゃないという気持ちが根底にあるから、どん底を経験した人にもセカンドチャンスや敗者復活の舞台を用意したい。芸人さんだったら、絶好のタイミングで笑いに変えたいんですよね。
三宅 私もさまざまなミスや失敗をしてきて「よく許してもらえたな」と思うので、佐久間さんのような方がいることが、現代の救いだなあと本気で思います。これからも自分に何が起こるかわからないので、できるだけごきげんで元気でいよう、と今日決意しました。
メディアの世界で、他人に対して高圧的になることがパフォーマンスになる時代もあったかもしれないけれど、現代はそういう時代から明らかに変わってきていますよね。ごきげんであることが、仕事術のひとつなんだなと心から思います。
完
前半はこちらからお読みいただけます。
<佐久間宣行さんの最新話題作>
『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』(税込1540円/集英社)
『その悩み、佐久間さんに聞いてみよう』(税込1694円/ダイヤモンド社)
<三宅香帆さんの最新話題作>
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(税込1100円/集英社)
『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(税込1320円/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
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