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岡田武史が考えるFC今治と日本サッカーの未来予想図。「育成こそが大事だってことを日本サッカーの成長が示している」

2025年シーズンからJ2で戦う岡田武史会長のFC今治。その挑戦は、サッカーチームを強くするだけでなく、愛媛県今治市という地方都市のコミュニティの在り方の変革も含めた異例のものだった。
過去3回では、「スタジアムを中心としたコミュニティつくり」「J2初シーズンでの目標」「FC今治高校で目指す教育」についてお伝えしてきた。最終回の第4回は、FC今治と日本サッカーの未来について。
(文中敬称略)

(取材・文/二宮寿朗 撮影/近藤 篤)
日本サッカー協会副会長の仕事など超多忙な日々を送る岡田武史。東京と愛媛を往復する回数は年々増えている。(写真/近藤 篤)
日本サッカー協会副会長の仕事など超多忙な日々を送る岡田武史。東京と愛媛を往復する回数は年々増えている。(写真/近藤 篤)

2年連続、国内線の搭乗回数1位の68歳

 岡田武史は「2年連続で日本一になりそうなんだよ」と言う。
 何のことかと思いきや、利用する航空会社における国内線の搭乗回数。2023年は「147」でトップとなり、アウェイマッチの観戦やFC今治高校学園長の業務も加わった今年はさらに上回っているため、既に“お墨付き”をもらっているそうだ。日本サッカー協会副会長の仕事などもあり、東京と愛媛を往復する回数は年々増えている。それだけ岡田が真剣に突っ走ってきた何よりの証拠になっている。

 2014年11月にFC今治の株式を51%取得して会長に就任してから、はや10年。チームは今年ようやくJ2昇格を決めた。「ありがとうサービス.夢スタジアム」を2017年に、そして「アシックス里山スタジアム」を2023年にオープンさせ、事業規模も拡大。2024年1月期は新スタジアムの費用で5年ぶりに赤字を計上したものの、純売上高は約13億円に伸ばしている(前年は約10億4500万円)。地域に根差し、地域やパートナーらの共感も深まって「共助のコミュニティづくり」が本格化していく準備は整ったとも言える。

 次の10年をどのように考えているのか。
 そう問うと、岡田は真剣な表情をこちらに向ける。

「俺は今、68歳だよ。正直、70歳くらいが潮時だと考えていて、経営にしても、サッカーのことにしてもどんどん任せていって、引き継ぎみたいにやっていかなきゃいけないと思っている。最後まで自分の手で実現したい、見届けたいっていう思いはあんまりない。やりたいことを好き勝手にやらせてもらったわけだから。会食ばかりでほとんど家にもいないし、カミさんにも『こんな寂しい老後を送るとは思いませんでした』って言われて、そろそろまっとうな人生を歩まなきゃなって(笑)。岡田がいなかったらダメじゃないかって言われるようなことだけは絶対にしちゃいけない。より持続可能にしていくための引き継ぎ作業になってくるとは思う」

「俺は今、68歳だよ。正直、70歳くらいが潮時だと考えている」(写真/近藤 篤)
「俺は今、68歳だよ。正直、70歳くらいが潮時だと考えている」(写真/近藤 篤)
手は、その皺は人生を雄弁に語る。岡田武史68歳の手。(写真/近藤 篤)
手は、その皺は人生を雄弁に語る。岡田武史68歳の手。(写真/近藤 篤)

「ホラ吹き」かもしれないが「詐欺師」ではない

 自ら時間の制限を設ける以上、次の一手も大きなアクションとなることは大体察しがつく。共助のコニュニティづくりは、まさにここからが正念場という思いが岡田にはある。

「FC今治高校の生徒たちと一緒になって共助のコミュニティづくりをやっていく。空き家を修理して(3年生時に退寮する生徒たちの)シェアハウスにする、みたいなところも含めて始めていくけど、ほかに案として挙がっているのがアシックス里山スタジアムの近くに学校の校舎を建てること」

 というのもFC今治高校への関心が高まってきたからだ。前回お伝えしたとおり、初年度の第一期生は定員80人中34人しか集まらなかったが、2025年度は推薦・一般受験合わせて定員は埋まる見込みだ。次年度もそうなっては里山校の校舎が足りなくなる問題に直面する。スタジアム周辺に新たな校舎を建てることができれば、インクルーシブ教育を実現する場になるというのが岡田の狙いだ。
 岡田が言葉を続ける。

「FC今治高校の生徒たちの校舎があって、おじいちゃんやおばあちゃんが集える施設や、障がいを持っている人が集える施設があれば、スタジアムを中心にしてもっと交流できるし、もっと(共助のコミュニティの)理解も深まると思うから。
 さらに言えば、スタジアム周辺をアートの拠点にもしていきたい。愛媛県と東京藝術大学の連携プロジェクトが始まっていて、スタジアムを中心に誰もがアートを楽しめる場所にしたいとも思っている。チームのことで言えば、新しいトレーニング場もつくりたい。こんな感じで同時にいろんなことを走らせようとしているから、頭の中はこんがらがってるけど(笑)」

 あと2年でそれができるかどうかは分からない。大きな構想だけに「そんなにうまくやれるのだろうか」と思われがちだが、岡田武史という人はこれまでも無理だと言われたことを、やり遂げてきた。
 FC今治の代表に就任した当初は地域住民に歓迎されていないことは感じていた。都会からきたよそ者がここで一体何をしようとしているのか、と警戒された。

「確かに今治の人は、とっつきにくいところはあったよ。でも一度信頼してくれたら、とことんついてきてくれる。そういうところがある」

 元々はサッカー好きより野球好きが多い愛媛の地。人口約15万人の今治に40億円を投じたアシックス里山スタジアムを完成させ、チケットが完売するまでにサッカー熱を高めるまでになった。
 スタジアム周辺に共助のコミュニティエリアが誕生すること、誰もがアートを楽しめる場になることも、岡田が言えば夢物語には聞こえない。
 己を「ホラ吹き」と自虐的に言うときもある。しかし最初は「ホラ」であっても、結局は「ホラ」でなくなっている。

「一歩間違えたら詐欺師だって言われることもあるよ。でも詐欺師っていうのは、自分が儲けようと考える。だから俺とは決定的に違う。儲けようとは少しも思っていないから、ホラ吹きと言っているだけ。大きなことを語ったところで絶対にできるなんていう自信はない。やってみたいと思ったら、勝手に動き出すほう。そうなったら、もう後には退けない。それだけだよ。オーバーに言うと命を懸けてやっていたら、想いって通じるもの。助けてくれる人がいろいろと現れてきて、何とか形になっている。そんな感じなのかな。
 これまでの10年は(相手もFC今治の理念に)共感したから一緒にやるよっていうリターンの期待をしなかったと思う。でもウチとしてもリターンを期待してもらって、投資を受けられるようにならないといけない。夢だけで資金が集まるものではないから」

 夢も語るが、現実も見る。なるほど日本代表監督して幾多の修羅場を潜り抜けてきた岡田武史らしいとも思えた。

パートナー企業であるアシックスと「里山ランニングイベント」などを定期的に開催している。(写真提供/FC今治)
パートナー企業であるアシックスと「里山ランニングイベント」などを定期的に開催している。(写真提供/FC今治)
里山の自然を活かし、スタジアム周辺では畑も。世代を超えたコミュニティづくりのひとつ。(写真提供/FC今治)
里山の自然を活かし、スタジアム周辺では畑も。世代を超えたコミュニティづくりのひとつ。(写真提供/FC今治)
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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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