2024.12.29
「何年かけてとか3年計画とかにするとうまくいかない。とにかくJ1昇格を目指す」。FC今治・岡田武史会長が語るJ2挑戦への決意
昇格決定後の岡田へのインタビューを中心に、クラブの挑戦の歩みや未来へのビジョンを全4回に分けて伝える特集。第2回目はサッカーの話にフォーカスする。
(文中敬称略)
(取材・文/二宮寿朗 撮影/近藤 篤)
昇格決定は達成感よりホッとしただけ
待ちに待ったJ2昇格だった。
2014年11月に岡田武史がFC今治の代表に就任して以降、2年後の2016年に四国リーグからJFL昇格を果たす。3年後にJFL4位を確定させ、2020年シーズンよりJ3入会と難なくその階段をのぼってきた。しかし2020年から始まったJ3の戦いではなかなか昇格争いに食い込めず、監督交代も続いた。2022年シーズン5位、23年シーズン4位と地力をつけつつ、元日本代表の服部年宏監督を招聘した今シーズンを「勝負の年」と位置づけた。
昇格に王手を掛けた11月10日、アウェイのガイナーレ鳥取戦。5-0と快勝して自動昇格圏内の2位を確定させ、スタンドで見守る岡田の表情からもようやく笑みもこぼれた。
「鳥取戦の前にあったホームのFC琉球戦(11月3日)が勝負だと思っていた。あそこで何とか勝てたから、8割方(昇格が)決まりだという思いはあったよ。それでも最終戦までズルズルもつれたりすると何が起こるか分からない。その意味ではあそこで決めてくれて、まあ、ホッとしたというのが一番だったよ」
琉球との一戦は残り10分まで1点リードされる苦しい展開であったが、そこから2点奪って勝利を手にしている。残り3試合で3位カターレ富山との勝ち点差を7に広げる大きな勝利となり、勢いをもって鳥取戦に臨むことができた。
「達成感みたいなものはないよ。支えてくれた社員、スタッフ、応援してくれたスポンサー、パートナー、サポーター……この人たちの期待を裏切っちゃいけない、喜ばせてあげたい、その思いだけだよね。だからホッとしただけ。
振り返ってみたらジョホールバルでイラン代表に延長Vゴールで勝ってワールドカップ出場を決めたとき(1997年11月16日、フランスワールドカップ・アジア最終予選第3代表決定戦)だってそうだった。帰りのバスなんて疲れ果ててシーンとしていた。やったぞー、とかじゃなくて、ホテルに到着したらみんなバーッとすぐ部屋に戻ったくらいだから。俺も、ああこれで日本に帰ることができるなっていう安堵した思いしかなかった。俺はいつもそんな感じだよ」
本来禁じ手である現場への意見
力強くJ2昇格をつかんだように見えるが、シーズンを通してみれば厳しい道のりではあった。
服部監督のもと開幕から4連勝を飾る最高のスタートを切ったものの、4月下旬から4連敗。順位を11位にまで落とした。「原点を見失っているように感じた」などと自分の目から見えた課題を服部監督、強化担当者に対して意見としてぶつけ、何度も議論の場を持ったという。
「会長が現場に意見を言うなんて、本来は禁じ手。それはもう俺自身が一番分かっている。ただ財務的に(アシックス里山スタジアムの)融資の返済が来年から始まるし、これまでずっと支えてくれているパートナーさんも〝そろそろいい加減にしてくれ〟と冷めてしまう可能性だってあった。今年上がることは絶対に成し遂げなければならなかった。だから自分としても背に腹は代えられないという思いがあったんだよ。
服部にはとても感謝している。普通、監督というのはプライドを高く持ってやっているから、人の意見を聞きたがらない。監督時代の俺なんてまさに全部自分で決めるから、その典型だった。でも俺も入って、ここが問題じゃないかとか、強化の担当を含めてみんなで話し合っていくなかで彼はいろんな人の意見を聞く耳を持ってくれた。それはものすごく勇気のいることだから」
クラブのトップが現場に首を突っ込むことは一歩間違えれば、チームの空中分解にもつながりかねない。そのリスクは承知していた。ただ指揮官として幾多の修羅場をくぐり抜けた経験値からくる自分が感じたことを、伝えなければ後悔するという思いがあった。服部監督がそれを汲んだうえでチームを懸命にまとめ上げた。
6月半ばからは12戦負けなしで、2位に浮上。そこからは崩れることなく安定した戦いを見せ、リーグ終盤は4連勝で締めくくっている。
新卒とJFLやJ3からはい上がろうという選手たちの加入
昨シーズンはアウェイの試合を観戦しないことも多くあったという。ダービーマッチである愛媛FCとの一戦(2023年11月11日)でさえも。今シーズンは宮本恒靖会長となった日本サッカー協会副会長としての業務、また今春開校したFC今治高校の学園長を務めるなど多忙を極めるなか、アウェイであってもスタンドから試合を眺めた。時間が許せば練習もこまめに見るようにした。絶対に上がるという覚悟を、自ら示し続けた。
今シーズンは編成においても、例年にはなかったチャレンジをしている。岡田が言葉を続ける。
「これまではJ1、J2から選手を獲ることが多かったけど、そればかりだと人件費は掛かるし、チームにも何となく勢いが出ないように感じていた。だから今シーズンはメインに新卒の選手を、そしてJFLやJ3からはい上がってやろうという意気込みを持った選手を中心に強化が採用してくれた。これも一緒になってコミュニケーションを図ってきた成果だと思っている」
名門・帝京高校出身の高卒ルーキーMF横山夢樹、DF梅木怜は主力として成長を遂げ、同じくJ3の奈良クラブから今季加入したDF加藤徹也はチームトップタイとなる36試合に出場している。過去を検証したうえでの編成の妙が、チームの結果につながった。
J2昇格を語るにあたって外せないのが26歳のブラジル人ストライカー、マルクス・ヴィニシウスの覚醒である。22年に加入してから2年間は2ケタゴールに届かなかったが、今シーズンは19得点を挙げてJ3得点王に輝いたほか、J3ベストイレブン、MVPと個人三冠を達成した。10番を背負うチームの大黒柱であり、バイスキャプテンとしてチームを引っ張った。獲得する際、岡田は自分の目でチェックしている。
「獲得するときに、これは面白い選手だなって思ったよ。チームに適応して、自分をどう活かしていくかって自分なりに答えを出すために2年くらいはかかるんじゃないか、と。3年目の今年は、あまり余計なプレーはやらずに、自分の身体能力を活かすことに徹した感じがあったよね。アイツの活躍なしで昇格はなかった」
すぐに結果を求めず、長い目で見守ったことが爆発につながったと言える。