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人材が流出する日本で、続々と起業する外国人たちとは一体どんな人たちなのか?【大石奈々メルボルン大学准教授インタビュー後編】

前編記事では、海外永住者が年々増加している現状についてメルボルン大学准教授の大石奈々氏にインタビューしたが、そんな日本で今、続々と外国人が起業しているという。中でも、「アフィニティ・ディアスポラ」と呼ばれる外国人に注目が集まっている。なぜ、「失われた30年」とも言われる長期衰退傾向にある日本に投資をするのか? 前編に引き続きメルボルン大学の大石氏に実情を語ってもらった。

構成/加藤裕子

日本に愛着を持ち、起業する外国人たち

――海外に移住した人々やその子孫(ディアスポラ)だけではなく、ある特定の国に愛着を感じる人々を「アフィニティ(親和的)・ディアスポラ」と呼ぶそうですね。具体的には、どのような人々を指すのでしょうか。

アフィニティ・ディアスポラは数年前に登場したまだ新しい概念で、国籍や民族的アイデンティティーは違うけれども、駐在や観光等での滞在経験や友人関係などを通して、ある国に特別な親和性や愛着を持っている海外の人たちです。

私が住んでいるオーストラリアには、日本が大好きで、何度も訪日するリピーター観光客が非常に多く、日本に家を買って、1年のうち2〜3ヶ月はそこに滞在するという人も珍しくありません。彼らのような人々も、アフィニティ・ディアスポラのひとつの典型と言えるでしょう。

日本の入国管理局の統計で把握できるのは、在留資格別の外国人の人数、国籍、性別に限られ、日本におけるアフィニティ・ディアスポラの全体像がわかるデータは存在しません。そのことを前提にした上で、私が地方で行った聞き取り調査で見えてきたことをお話しすると、起業家に関していえば、元アフィニティ・ディアスポラの方々が多いです。

地域によってもタイプが異なるのですが、例えば北海道のニセコや長野県の白馬村では、ウィンタースポーツが好きなオーストラリア人や欧米系の外国人たちが、何度も観光で通ううちに地元の人との関係が深まっていき、配偶者を見つけたり、高齢のオーナーからペンション経営を引き継いだりして起業する事例が多く見られました。また京都や別府などでは、日本文化が大好きな海外の若者が留学生として来日し、そのまま起業して定住した例もあります。

大石奈々メルボルン大学准教授
大石奈々メルボルン大学准教授

地方の活性化に貢献するアフィニティ・ディアスポラ

――日本の不動産を買う外国人に対しては、ネガティブなイメージも持たれがちですが、そのような人々もアフィニティ・ディアスポラに含まれるのでしょうか。

投機が目的で現地を一度も訪れないような外国人は、アフィニティ・ディアスポラとは呼べないと思います。ただ、私が地方でインタビューした方々に関して言うと、その地域やそこに住んでいる人々に非常に強い愛着を持っていました。一年のうち数か月しか住まなくても地域にとけこんで近所の方々と仲良く交流している人たちもいました。

――たとえばオーバーツーリズムや異文化コミュニケーションの難しさなど、日本に来る外国人を必ずしも歓迎しないという問題も出てきています。

たしかにインバウンドで公共交通やタクシーが利用しにくくなるという問題は全国各地で起こっていますし、外国人の投資による地価の上昇で地元に住む日本人が不動産を買いにくくなる状況も生まれつつあります。地元住民が不便を感じず、より外国人を受け入れたいと思うようなシステムを作るときに来ているのではないでしょうか。

例えば地価の上昇に関して言えば、オーストラリアでは国民が家を持てる環境を整えるため、永住権を持たない外国人には中古物件の購入を禁じています。外国人のビジネスが地方経済に寄与する点は重要ですが、地域に住む人々の生活を守り、コミュニティーを維持することも大切です。

また、アフィニティ・ディアスポラが日本に移住して根付こうというとき、海外から帰国した日本人が果たす役割は大きく、実際、彼らが海外で磨いた異文化コミュニケーション能力や語学力を活かして、在住外国人をサポートする事例も増えてきています。

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大石奈々

おおいしなな/メルボルン大学アジア研究所准教授。移民政策学会理事。ハーバード大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。国際労働機関(ILO)政策分析官、国際基督教大学准教授、上智大学教授などを経て2013年から現職。専門は日本研究、移住研究、国際社会学。近書に『流出する日本人――海外移住の光と影』(中公新書)がある。

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