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創刊からの10年間でもっとも嬉しかった『SPY×FAMILY』のコミックス初版100万部達成! 【戸部田誠『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』序章 試し読み】

戸部田誠さんの新刊ノンフィクション『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』が本日5月9日(金)に発売になりました。
今回は、書籍の試し読み企画として、「序章 宣戦布告」をお届けします。

(文中敬称略。役職などは掲載内容当時のもの。一部、ウェブ用に調整しています)

「『週刊少年ジャンプ』に宣戦布告する。」という刺激的なコピー

「『週刊少年ジャンプ』に宣戦布告する。」

 2014年9月22日。そんな刺激的なコピーの広告が、当の「週刊少年ジャンプ」43号に掲載された。
 その広告は黒一色の背景に白抜きの文字だけ。コピーはこう続く。

「少年ジャンプが、一番だ。
 少年ジャンプが、最強だ。
 少年ジャンプが、頂点だ。
 少年ジャンプが、絶対だ。
 僕達は、
 少年ジャンプが、大好きだ。
 だからこそ、
 少年ジャンプを、倒すと決めた。」

 そして、最後にこう添えられていた。

「少年ジャンプを超える『少年ジャンプ+』創刊」

 この広告が掲載された「ジャンプ」発売の同日、「ジャンプ」の名を冠し、毎日複数のオリジナルマンガを配信すると同時に、「週刊少年ジャンプ」最新号のサイマル配信の機能も持ったマンガ雑誌アプリ「少年ジャンプ+」が創刊された。

審査が通ったのは、リリースのわずか1週間前

「これ、ひどくないか?」

 のちに「ジャンプ+」に合流することとなる「ジャンプ」(以下、単に「ジャンプ」と記す場合は、「週刊少年ジャンプ」を指す)編集主任の中路はそう思った。
 当の編集長・瓶子は泰然としていた。何しろ、瓶子は「ジャンプ+」の編集長も兼任していたのだ。

「別に編集部の中で〝ケンカ〟するんなら、それはそれでいいかなと思ってたんで。どっちが追い落とすとかじゃなくて、競争なんでね」

 瓶子の意向もあり、「ジャンプ+」編集部も、当初は独立したものではなく「ジャンプ」の編集部内の片隅に併設されていた。
 実質的に「ジャンプ+」立ち上げを主導したのは、「ジャンプ」の副編集長を務め、「ジャンプ+」の副編集長を兼任することになった細野と、デジタル事業部からやってきた籾山だ(2017年6月に細野は「ジャンプ+」編集長に昇格)。この2人に加えて、「週刊ヤングジャンプ」(通称「ヤンジャン」)から佐井と「ジャンプ」からもう1人が専任編集者として加わった。実働部隊はわずか4人。心もとない船出だった。
 当時、集英社の編集部門は「第1編集部」から「第10編集部」まであり、「ジャンプ」を筆頭とした少年マンガを担当しているのは「第3編集部」(通称「3編」)である。佐井の前配属先の「ヤングジャンプ」は青年マンガ誌のため「第4編集部」にあたる。「3編」と「4編」での人事の行き来は当時あまり多くなかったため、異例の人事ともいえた。
 佐井は、「宣戦布告」というコピーを決めた会議にも参加しており、少し面食らった。
 何しろ、当初はもっと過激な文言が提案されていたからだ。

「『ジャンプ』にそんなケンカ売ってもしょうがないんじゃないか、『ジャンプ』ありきでしょとは思いました(笑)。でも細野さんも籾山さんも、かなりタカ派な人なので、最終的に世に出ている形に落ち着きました。『ジャンプ』の人がどう思ったかわかんないですけど、そこは親分が共通で瓶子さんでしたから。瓶子さんは、普段物静かな人ですけど、実はロックンロールな人なんで。スゴいことはわかるんだけど、なぜスゴいのかがわからない不思議な魅力のある人なんです」

 細野や籾山は「ジャンプ」編集部がどう思うのかなどと考えている余裕などなかった。そんなことより果たして無事ローンチできるのだろうか、という不安のほうが大きかった。
「ジャンプ+」創刊前の「ジャンプ」内広告は、その期待を煽るようにローンチの3週間前の40号から打っていた。『DRAGON BALL』の孫悟空ら「ジャンプ」の人気キャラクターを使い、段階的に「少年ジャンプ、」「お前を」「超える!」というセリフを言わせて、〝挑発〟していた。
 しかし、実はアプリの審査がまだ通っていなかったのだ。細野は苦笑しつつ振り返る。

「失敗したかもと思いましたよ。3週間前の段階で全然、審査に通ってなかった。俺らなんでこんなことしたんだろうって。普通にローンチできない可能性があったんですよ。なのに3週も前から広告を打って、なんであんな計画を立てたんだろうって(笑)。後から考えれば考えるほど、あの頃の自分たちはおかしくなってたんだと思いますね。別にローンチした後に載せても良かったと思いますから」
 
 きっと新雑誌創刊時同様の独特な高揚感、その熱に浮かされていたのだろう。 

「もうやっちゃおうぜ!」

 細野はリスクを顧みず、ティザー広告にゴーサインを出した。それにもっとも胃をキリキリさせられたのが、アプリの運営を請け負ったデジタルサービス会社「ICE」の渡邊だ。通常、アプリはローンチ予定の1か月ほど前に申請を出す。しかし、一度で通ることはまずない。必ずといっていいほど、「NG」を意味する「リジェクト」が返ってくる。それを修正して再申請すると、また別のリジェクト判定が来て、それを修正するという工程を繰り返すのが常だった。基本的にリジェクトの理由が詳しく説明されることはないため、修正にどれくらい時間がかかるかもわからない。「ジャンプ+」のアプリもなかなか審査に通らず、何度も修正・再申請を繰り返していた。

「ヤバい。リリースできないかもしれない。日程ずらせる……?」

 そんな、ずっとモヤモヤして、お腹をくだしているような状態が1か月近く続いた。
 そしてリリースのわずか1週間前のことだ。

「やった! オールグリーンだ!」

 アプリの管理画面では、リジェクトの場合、赤色のマークがつき、合格の場合、緑色のマークがつく。ついにすべての項目に緑色のマークがついた。こうして2014年9月22日、「少年ジャンプ+」は無事ローンチを果たしたのだ。

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新刊紹介

戸部田誠(てれびのスキマ)

とべた・まこと
●1978年生まれ。ライター。ペンネームは「てれびのスキマ」。
『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『笑福亭鶴瓶論』『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』『売れるには理由がある』『芸能界誕生』など著書多数。
公式X@u5u

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