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最強シェルパ、ミンマGに聞く山との出合い、世界初K2冬季登頂【石川直樹 特別対談/前編】

超難ルート、ローツェ南壁の冬期登攀にいきなり抜擢

石川  その2006年のマナスルで初めてヒマラヤ登山を経験して、同じ年の冬にローツェ南壁に行きますね。マナスルの清掃登山とは全く趣旨が異なる、超・高難度のルートを目指す日本の隊に参加することになったわけです。隊長は田辺治(2010年没)さんでした。
ローツェ南壁は約3300mの大岩壁で、ラインホルト・メスナーも登れなかったとても難しいルートです。そんな壁を田辺さんは登り切って稜線まで出た。その隊にミンマはシェルパとして参加して働いていたんですよね。そのときのストーリーもぜひ教えてください。

ミンマ 私にとって2回目の高所登山でした。マナスル清掃登山で他のガイドから身体が強いと認められて。シェルパの仕事は海外から遠征に来るクライアントの荷物を預かって運んだりすることも含まれるので、体力は仕事の上でかなり重要です。だから、評価してもらえて声がかかったんだと思います。

石川  ミンマは、このときまだ20歳そこそこくらいですよね。マナスルの清掃登山に参加しただけだから、技術もそこまでなかったと思うんです。そのミンマが、他のシェルパが脱落していくなか、難しい技術を必要とするローツェ南壁を固定ロープがあったとはいえ標高8000mあたりまで登って、田辺さんたちのために酸素ボンベを運んだと聞きました。これは、ちょっとすごいことだと……。

ミンマ 本当に難しいルートだったのでアクシデントも多くて。怪我をしたシェルパもいました。自分は当時本格的なトレーニングも受けていなかったし、今振り返ると、ちょっと恐ろしさを感じますね。

アマダブラム頂上から撮影したエベレスト(中央)とローツェ南壁  撮影/石川直樹(2018年)
アマダブラム頂上から撮影したエベレスト(中央)とローツェ南壁  撮影/石川直樹(2018年)

ネパール人10人が1チームになって達成した、K2冬季初登頂秘話

石川 ローツェ南壁のときは通常よりも厳しい冬季でしたよね。田辺さんは、この南壁を登り切ったものの、頂上には立てなかった……とても残念でした。でも、こんな歴史的な遠征にミンマがあの若さで参加していたっていうことは、とにかくすごい。それが2006年。その後、2016年にIFMGA(国際山岳ガイド連盟)の国際ガイド資格を取り、Imagine Nepalという会社を立ち上げる。
僕がミンマに初めて会ったのは、2019年のK2の遠征のときですよね。このときK2の登頂は断念して、すぐにガッシャブルムⅡを目指すことになりました。

ミンマ このときはシェルパも他のチームと比べてかなり強い人たちで、参加メンバーの技術も成熟していました。その精鋭チームが挑んだのがこのK2遠征でしたよね。でも、最終キャンプ地の約8200m地点で、これ以上進むのはリスキーだという判断があって、下山することになります。

石川  雪の状況が悪くて諦めることになりました。ただ、ミンマは当時ですでに2回K2に登頂していた。さらに、2021年には世界で初めて冬季登頂を果たしました。このときはネパール人10人が参加していましたよね。このエクスペディションについてもぜひ聞かせてもらえますか?

ミンマ こういう登山は今までなかったように思いますね。冬季のK2はこれまで誰も登頂したことがありませんでした。ネパール人はニルマル・プルジャ(※6カ月間で14座を登頂したネパール人クライマー)が率いるチームや、私が率いるチームなど含めた合計10人。この他のチームにはパキスタン人登山家や現地ポーターもいて、ネパール人とパキスタン人が1つのチームとして登った、という気持ちもあります(※K2へはパキスタンからアプローチすることが主流)。

石川  ミンマが隊長のチーム(Imagine Nepal社)は、ダワ・テンジンとキルー・ペンバを含めた3人。ニルマル・プルジャの隊(Elite Exped社)は合計6人、そしてSeven Sumit Treks社からソナ・シェルパが1人参加していた。3チームが一緒になって、10人で登っていったわけですね。

登頂を記念して撮影された写真を見ながら当時を振り返るミンマさん(右)と石川さん(左)
登頂を記念して撮影された写真を見ながら当時を振り返るミンマさん(右)と石川さん(左)

ミンマ 3チームによる体制はかなり大きいチームに感じましたね。その中で自分がリーダーという意識がありました。同時に、この登山はネパールのために成功させたいという気持ちがあったので、争うことなく登頂したいと思っていました。最終的に、皆で一列になって同じペースで登頂しよう、ということになったんですが……全員一列ではカメラに入りきらなくて。結局2列になったというストーリーがあります(※横一列になってネパールの国歌を歌いながら登頂する動画が当時インスタグラムなどで公開され、話題になった)。このK2登山は、本当に記憶に残るものになりました。

石川 海外のメディアにも多数取り上げられましたし、ネパールにとってもシェルパにとっても本当に歴史的瞬間でしたよね。

後編に続く

石川直樹さんの写真展が開催中


2001年のエベレストから2024年シシャパンマ登頂まで――。
14座登頂の偉業を記念し、写真家・石川直樹さんの23年にわたる挑戦の軌跡を辿る写真展「With the Whole Earth Below」が開催中。50点超に及ぶ写真展示は圧巻。遠征中に使用されたウエア類や新作映像なども見ることができる。

開催期間: 3月22日(土)~4月20日(日)
開場時間:11:00〜19:00(最終日のみ15:00まで)
会場: 株式会社ゴールドウイン 東京本社
〒107-8570 東京都港区北青山3丁目5-6 青朋ビル
※入場無料

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新刊紹介

ミンマ・ギャルジェ・シェルパ(Mingma Gyalje Sherpa)

1986年ネパール生まれ。ネパールをはじめ、パキスタンやチベットなどでの高所登山やトレッキングをコーディネート・運営するImagine Nepal社を2016年に設立。高所登山のガイドとして、そして登山家として活動する。2022年に冬期K2の世界初登頂を果たし、2024年には8000m峰14座全ての無酸素登頂に成功。通称ミンマG。

石川直樹

1977年東京生まれ。写真家。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、ヒマラヤから都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。
2024年8000峰14座の登頂に成功する。ヒマラヤを撮影した写真集に『Qomolangma』『K2』『Lhotse』『Nanga Parbat』(いずれもSLANT刊)や、『チョ・オユー』(平凡社刊)などがある。

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