2026.1.25
【吉田類さん×稲田俊輔さん『東西の味』刊行記念対談 】「異世界に来た!」 東京の味に カルチャーショックを受けました
コシの讃岐うどん、柔らかい福岡のうどん、だしの京都のうどん
吉田 今回の本では、とくに、「うどん」の章が気に入りました。僕もうどん、大好きなんですよ。香川のコシのある讃岐うどんがなんといってもおいしい。それから本にも出てくる、福岡のうどんもいいですね。「かろのうろん」というお店、知っています?
稲田 はい、わかります。
吉田 博多弁で濁点を発音しないから「うろん」なんですが、ここの柔らかくてコシがないうどんは、じんわりとおいしいです。まあ、僕の個人的な好みとしては香川のほうが好きなんですけど、どちらも東京にいるとなかなか食べられません。でも、「丸亀製麺」は食べ歩いてますよ。「酒場放浪記」の撮影が終わると、お腹がすくんですよ。
稲田 なるほど。意外と主食までは行き着きませんからね。
吉田 意外とそうなんです(笑)。「丸亀製麺」は店舗によって味が違うから、エリアごとのお気に入りを見つけています。麺職人さんとか店員さんによっても違いが出るんじゃないかと思いますね。丸亀と付くけれど丸亀(香川県)ではなく、兵庫県発祥の会社なんですけど、なぜここまで大成功したかといえばやっぱりおいしいからだろうと。
稲田 本当にそうだと思います。讃岐うどん、福岡のうどん、それから僕は京都のうどんも大好きなんです。
吉田 庶民的な大阪のうどんを上品にしたのが、京都の味だと思いますね。
稲田 大阪に比べると、京都は、だしに鰹をふんだんに使っています。大阪も鰹を使うんですが、昆布を超えない程度なんです。かたや京都の鰹は、昆布をポーンと超えていく。似ているようで全然違って、京都のうどんのキリっとした味わいに雅を感じてしまいます。
吉田 大阪は庶民の範囲を超えない。京都は超えるんです。
稲田 なるほどなるほど。好きな味は割と似ているはずだけど、超えようとするか、超えずに踏みとどまるかの違い。すごくよくわかります。これは良し悪しではなくあくまで好き嫌いの話ですが、僕は、京都のうどんが一番好きですね。
吉田 本に出てくる他の料理でいうと、ラーメンも好きですし、餃子も好きですね。羽根の付いた餃子もおいしいし、宇都宮餃子が人気なのもわかるんだけど、僕が好きなのは土佐の餃子です。もともと屋台で営業していた安兵衛という店で、今は東京にも2店舗あります(めぐろの安兵衛、えびすの安兵衛)。
稲田 どういう特徴があるんですか?
吉田 ジューシーでおいしいのはもちろんなんですが、大きさがちょうどいいんです。餃子は大きさで味が変わってくるんですよ。ここのは大きすぎず小さすぎず絶妙。福岡の一口餃子は、おいしいけどちょっと物足りないし、大きすぎると食べにくいしね。大きさが、僕の好みにドンピシャということです。
稲田 そうですか。僕にとっての一位は「餃子の王将」の生姜餃子なんですが、餃子はけっこう地域性がありますよね。
吉田 ありますね。
稲田 名古屋には、三日月みたいな形の、味の強めの餃子があります。すでに味が完結しているのに、外食に濃い味を求める名古屋らしく、ちょっと甘いタレをつけて食べるんですよ。僕は「名古屋餃子」と呼んでますが、名古屋の人はこれを特徴的と思っていなくて、懐かしい味だね、くらいの感覚のようです。ローカルグルメの面白さだなあと思います。

究極の味は国を越えて似てくる
吉田 甘めのものは確かにおいしんだけれど、なるべく甘めじゃないものを、お酒とは合わせるようにしています。甘さが勝ってしまうんですね。お酒と合う味というと、だし味です。そもそも僕の故郷の土佐は「だしの国」なんですよ。戦国時代に土佐に下向した一条家が京都のだしの味を伝えたといわれています。
稲田 酒を飲むからこそおいしい味ってありますね。ある宮城県の方が、世の中で言われているほど宮城の人はホヤを食べないよと言ったんです。それに反論した人がいまして。それは酒を飲まない人たちの世界観であると。酒を飲む宮城の人は、ホヤを食べまくってると。
吉田 僕はホヤを食べに、岩手まで行ったことがあります。太平洋側ですね。日本酒に合わせるのはこれしかないと思うような、えらいうまいホヤでした。お酒を飲む人は、イタリアンでもフレンチでも、酒に合わせて食べものを選ぶんですよ。だから飲む人と飲まない人では、求める味が微妙に違ってくるでしょうね。
稲田 そうですね。今回の本は「東西」という、エリアによる味のグラデーションや違いを書いたわけですが、これとは別に、酒を飲むか飲まないかによるグラデーションもあるということですね。
吉田 そうでしょうね。
稲田 それから今回の本には、入れられなかったトピックがたくさんあるんです。その一つが「煮込み」だったので、お話しできて嬉しかったです。
吉田 煮込みは本当に深くて、世界ともつながるんです。以前、「酒場放浪記」のフランス編(「吉田類フランス大紀行~美食と芸術を訪ねて~」)でリヨンに行ったんです。「ブション」と呼ばれる大衆食堂に入ったら、ここの定番が内臓料理なんですね。東京の煮込みとどう違うんだろうと思って食べたら、基本、同じなんですよ。店の女性が言うには、おばあちゃんの味なんだと。安い内臓を使ってみんなが喜ぶ料理を作ろうと思ったのが始まりだということで、成り立ちも東京と同じでした。おいしかったですね。
稲田 同じ味だというの、わかります。味付けが味噌か、塩とハーブかは、関係なくなるんですよね。インドにもあるんです。ソルポテルという煮込み料理があって、味付けはスパイスですが、東京の煮込みと似ています。
吉田 究極の味って、似てきません?
稲田 原始的な味と、ものすごく作り込んだ究極の味は、地域や国境を越えて似てきますね。その間にいろんなバージョンが広がっているのも豊かで面白くて。
吉田 煮込みの起源は大航海時代までさかのぼるそうで、ある店の主人は、遊びを兼ねてポルトガルに研究に行くと言っていました。
稲田 ポルトガルから中南米にも伝わっていますから、「世界もつ煮紀行」が書けそうですね。世界編と日本編で。
吉田 可能性が広がりますね。稲田さん、本当にいい食べ歩きをされていて僕も刺激を受けました。これからますます、いろんなところを回られるんでしょうね。
稲田 本人が楽しんでいるのは間違いないです。どこに行っても何かを発見したい、発見できなかったら俺の負け、くらいの気持ちでやってます(笑)。
吉田 この近く(神保町)だと、「兵六」行かれました?
稲田 いえ、行ってないです。
吉田 「既類目」ですが(笑)、しみじみと酒と料理が味わえるいい店です。
稲田 ぜひ、行ってみます。
吉田 次は酒場でお会いしましょう。
稲田 今日はありがとうございました。
『東西の味』1月26日発売

分け入っても分け入ってもうまい味!
博覧強記の料理人・イナダシュンスケが、うどん・蕎麦・餃子・から揚げ・ラーメン・すき焼き・お好み焼きなどの王道人気メニューから、日本の味の「東西差」を考えるエッセイ。
・おいしさの基準は「関西化」している?
・なぜラーメン店の店主は腕を組んで写真に写るのか
・広島VS大阪 仁義なき「お好み焼き論争」の行方
・日本料理店では「醤油」をなんと呼ぶ?
・餃子には何をつけて食べるべきか……
身近すぎて誰もが膝打ちする全10章
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