2022.7.8
本を開けば目の前に散歩道があらわれ、気がつけば村井さんが隣に——畠山理仁さんが読む『本を読んだら散歩に行こう』
認知症が進行する義母の介護、双子の息子たちの高校受験、積み重なりゆく仕事、長引くコロナ禍――。
ハプニング続きの日々のなかで、愛犬のラブラドール、ハリーを横に開いた本は……?
読書家としても知られる村井さんの読書案内を兼ねた濃厚エピソード満載のエッセイ集です。
本書の刊行を記念して、連続書評特集をお届けします。
第4弾は、フリーランスライターの畠山理仁さんです。
1年ほど前、自著『コロナ時代の選挙漫遊記』刊行記念トークライブで初共演、『ブッシュ妄言録』をはじめ、村井さんの著作や発言に興味を持ち続けている畠山さんは、本書をどのように読まれたのでしょうか。
(文/畠山理仁 構成/よみタイ編集部)
本は私たちを別次元に連れて行く扉
「子どもの頃、初めて行った大きな書店の本棚の前で泣いたことがあるんです」
本好きが高じて自ら書店を開くまでになった女性からそんな話を聞いた。
本棚の前で泣く? いったい、なぜ?
「目の前にあまりにもたくさんの本が並んでいることに圧倒されたんです。『私は死ぬまでにすべての本を読むことができないんだ』と絶望して、悲しくて涙がこぼれました」
本は私たちを別次元に連れて行く扉だ。本を開けば自分だけの世界が始まる。行ったことのない土地、会ったことのない人、食べたことのない食べ物が現れる。生きづらい現実を忘れさせ、心を幸せで満たす泉もある。
「できればすべての扉を開きたい」
そんな願いが叶わないと悟った彼女が開いたのは、自分が自信を持って勧められる本だけを並べる小さな書店だった。
他人に本を勧めるのは勇気がいる。自分にとって大切な宝物のありかを教えるような行為だからだ。生身の自分をすべてさらけ出すような気恥ずかしさもある。
それでも人は誰かに本を勧める。宝物のありかを教える。自分が一度手に入れた宝は、誰にも奪われない安心感が本にはある。それぞれが唯一無二の宝を胸に抱えながら、共通の話を楽しくできる。素敵な本は、読書に費やした時間以上のものを与えてくれる。
村井理子さんの『本を読んだら散歩に行こう』は、村井さんによるブックガイドだ。本を開けば目の前に散歩道があらわれ、気がつけば村井さんが隣にいる。それどころか、私たちはいつのまにか村井さんの人生を勝手に生きている。家族のような気持ちにもなる。
村井さんが刻む文章のリズムは心地よい。時にはゆっくり、時には軽やかに、そして時には激しい鼓動で新しい血を全身に巡らせる。
一日でも長く生きて、また別の人生を生きたくなるような一冊だ。
(畠山理仁/フリーランスライター)
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想定外の人生、かたわらには、犬と本。
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