2020.8.28
「上人さま」に絶対やってはいけないこと

ああそう、東京から……わざわざこんな田舎まで。
こういう変わったものを見てまわるのがお好きですか。
でもよく知りましたね、この上人さまのミイラのこと。
今はあれですか、インターネットでも紹介されているんですか。それでもこんな無名の場所、よほど調べない限り、なかなか出てこないでしょう。
あ、お茶はもうよろしいですかね。
では外の蔵まで、案内いたします。
ぬかるんでますので足元に気をつけて。昨日まで、ひどい雨でしたから。
……ここの上人さまの由来はですね……。
昔むかし、ここら一帯で日照りと疫病が流行りました。
そこで旅のお坊さんが、村人たちを救うため、生きたまま石棺に入り、土の中に埋めてもらったんです。
そのまま地下で命が尽きるまで、雨乞いと疫病退散の祈願をしたのだと……。
石棺の中で、鈴をちーんちーんと鳴らし続けて。七日七晩、土山に通した空気穴の竹筒から、鈴の音が聞こえていました。それもいつしかやんで。
見事に成仏なされたのですね。
そして百年後、石棺を掘り起こすと、ミイラになった上人さまがいらっしゃったんです。
即身仏、というのはご存じですか。自分から地下に埋まって、生きながら成仏した坊さんのミイラです。山形を中心に、全国でだいたい二十人くらいが丁重に祀られています。
でも、本当は他にも沢山いるはずなんですよ。ミイラ化に失敗して腐り落ちてしまった人やら、どこに埋まっているかわからず掘り出されていない人やら……。そんな、誰にも知られていない人たちが日本のあちこちに、何十人もね。
ここの上人さまは土の中から戻ってきただけ、まだマシでしょう。とはいえ、地元の外ではほとんど知られてないですが。私も長いこと管理を任されてますけど、よその人が来るのは一年に一度くらいですかね。
はい、着きましたよ。この土蔵の中です。今、錠を開けますから。
最初に言いましたけど、中は全て撮影厳禁なので、お願いいたします。
……ええ、蔵ですからね。夏なのに寒いくらいでしょう。
また昨日まで、ひどい雨でしたから。冷え冷えした空気が溜まってるんです。
はい、こちらです。
これが上人さまの入っていた石棺で、この祠に入っているのが成仏された上人さま。