よみタイ

「上人さま」に絶対やってはいけないこと
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

「上人さま」に絶対やってはいけないこと

 ああそう、東京から……わざわざこんな田舎まで。
 こういう変わったものを見てまわるのがお好きですか。
 でもよく知りましたね、この上人しょうにんさまのミイラのこと。
 今はあれですか、インターネットでも紹介されているんですか。それでもこんな無名の場所、よほど調べない限り、なかなか出てこないでしょう。
 あ、お茶はもうよろしいですかね。
 では外の蔵まで、案内いたします。
 ぬかるんでますので足元に気をつけて。昨日まで、ひどい雨でしたから。
 
 ……ここの上人さまの由来はですね……。
 昔むかし、ここら一帯で日照りと疫病が流行りました。
 そこで旅のお坊さんが、村人たちを救うため、生きたまま石棺に入り、土の中に埋めてもらったんです。
 そのまま地下で命が尽きるまで、雨乞いと疫病退散の祈願をしたのだと……。
 石棺の中で、りんをちーんちーんと鳴らし続けて。七日七晩、土山に通した空気穴の竹筒から、鈴の音が聞こえていました。それもいつしかやんで。
 見事に成仏なされたのですね。

 そして百年後、石棺を掘り起こすと、ミイラになった上人さまがいらっしゃったんです。
 即身仏、というのはご存じですか。自分から地下に埋まって、生きながら成仏した坊さんのミイラです。山形を中心に、全国でだいたい二十人くらいが丁重に祀られています。
 でも、本当は他にも沢山いるはずなんですよ。ミイラ化に失敗して腐り落ちてしまった人やら、どこに埋まっているかわからず掘り出されていない人やら……。そんな、誰にも知られていない人たちが日本のあちこちに、何十人もね。
 ここの上人さまは土の中から戻ってきただけ、まだマシでしょう。とはいえ、地元の外ではほとんど知られてないですが。私も長いこと管理を任されてますけど、よその人が来るのは一年に一度くらいですかね。
 
 はい、着きましたよ。この土蔵の中です。今、錠を開けますから。
 最初に言いましたけど、中は全て撮影厳禁なので、お願いいたします。
 ……ええ、蔵ですからね。夏なのに寒いくらいでしょう。
 また昨日まで、ひどい雨でしたから。冷え冷えした空気が溜まってるんです。
 はい、こちらです。
 これが上人さまの入っていた石棺で、このほこらに入っているのが成仏された上人さま。
 

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityo

週間ランキング 今読まれているホットな記事