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ドアスコープの向こうに見えたもの
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

ドアスコープの向こうに見えたもの

 アパートの階段から、彼女の足音が響いてきた。
 今日はいつもより帰ってくるタイミングが早い。しかも急ぎ足で駆け上ってきているようだ。さっき、夕食をつくっておいたとメールしたからだろう。
 ガチャリ。玄関ドアの開く音がする。
 ただなぜか、物音はそこでぴたっとやんだ。いつまでたっても彼女がリビングに入ってくる気配がない。「おかえり」と声をかけても、なんの返事もなし。
 夕飯が冷めるぞ……とイライラしつつ、廊下の方を覗いてみた。
 玄関の三和土たたきに、彼女が背を向けて立っていた。
 靴も脱がないまま、少しだけ開いたドアの隙間から、じっと外をうかがっている。

「なにやってるの」
「いや、なんか、つけられてる気がして」
「え、痴漢?」慌てて訊ねると、予想外の答えが返ってきた。
「熊かもしれない」
 熊。この東京の住宅街に、熊。

「よく見えなかったけど。距離あったし。この辺、街灯なくて暗いし」
 でも駅前を過ぎた辺りからずっと、巨大な動物が後ろをついてきたのは間違いない。
 ちらちら背後に見え隠れした影は、明らかに人ではなく、大型獣のそれだったという。

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityo

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