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日めくり怪談 8月15日
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの最新書き下ろし怪談集『日めくり怪談』刊行を記念して、本文の中から選りすぐりのお話を一挙掲載。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

日めくり怪談 8月15日

 あれは僕が高校二年生だった三月。部活の先輩たちの卒業お別れ会に出た時のことです。
 送別会は二年生のくだらない余興、手紙交換といったし物を経て、最後にお別れビデオの上映となりました。
 すると映像が流れてすぐ、ワイワイ騒いでいた三年生たちが急に静かになったのです。
 映されているのは、彼らが入学直後からの色々な学校生活や行事を楽しんでいるシーン。声や環境音はなく、卒業ソングのBGMだけが重なっているという、まったく穏当な映像です。
 ただ、事情を知らない僕ですら「あれ?」と違和感を覚えました。
 まず第一に、お別れビデオを作ったのは、二年生のヒノでした。つまり先輩たちが一年生の時のシーンが撮れるはずありません。
 第二に、絵の質感がやけにソフトで、動きもなんだかカクカクしていたのです。その理由は、ビデオカメラではなく8㎜フィルムで撮影されたものだからでした。
 三年生たちは、この撮影者が誰かすぐわかりました。
 半年前、難病で亡くなった「カジ」という同級生です。
 彼は入学時から毎日のようにフィルムカメラを学校に持ってきて、ことあるごとに同級生たちを撮り続けていたそうです。
 当時すでに8㎜フィルムは絶滅状態でした。買えるのは新宿ヨドバシカメラだけ、現像できるのも東京都の一、二か所のみ。もちろんお金だって相当かかりますが、親の理解もあったのでしょう。8㎜といえばカジさんの代名詞でした。
 カジさんが夏休みの終わりに亡くなったとは、僕も聞いていました。どうやらその後、中学の後輩だったヒノが編集済みのフィルムを託され、送別会に向けてデジタルスキャンして作成したビデオだったようです。
 映像の途中から、先輩たちが鼻をすする音が聞こえだしました。
 シーンが切り替わり、退職した先生、遠くに引っ越してしまったコーチなど、お世話になった人たちが映ります。 
 彼らは皆、色々な言葉を書いた大きなスケッチブックを掲げ、カメラ目線で微笑ほほえんでいます。8㎜は音が収録できないので、文字によってメッセージを伝えているのです。
 体調の悪い中、カジさんがコツコツ撮りためていた映像でした。
 そして、ラストシーンです。
 死を目前に、ガリガリにやせ細ったカジさんが映りました。背景は、彼のクラスである三年四組の教室。カジさんは最後に、「卒業おめでとう」のスケッチブックを持った自分自身にカメラを向け、一緒に卒業できなかった友人たちに、遺言を伝えたのです。
 ビデオは終わり、部屋も明るくなりました。
 無理もありませんが、先輩たちはあまりの驚きと感動で涙ぐみ、声すら発せない様子でした。哀しくも温かな空気が、室内に満ちています。
 ただ僕だけは、その空気にひたることが出来ませんでした。
 
 後日、僕はヒノに頼んで、もう一度ビデオを見せてもらいました。
 カジさんがスケッチブックを掲げるラストシーンを確認するためです。
 考えてみれば、あんなミイラのようになった患者を、病院が外出させるでしょうか。学校に来たとして、誰にも見つからないことなどありえるでしょうか。
 ヒノによれば、カジさんは夏頃にはベッドを出られなくなっていたそうです。まあ、それは病院と学校が特別な計らいをしたとすれば説明がつくかもしれません。
 ただわからないのは……窓の外に見える中庭の景色です。そこの木々は全て葉が落ちているのです。明らかに冬枯れの木なのです。
 亡くなる直前の夏に撮られたのなら、中庭は鬱蒼うっそうとした小さな森のようになっているはず。一年前の冬というのもありえない。その頃は病気が発覚していたものの、カジさん自身が映像のような見た目ではありませんでした。
 どういうことかとヒノを問い詰めましたが「二月頃にカジさんの親から受け取ったフィルムを、そのまま業者にスキャンさせた。俺はただBGMを入れただけ」とのこと。撮影については、いっさい知らないのです。
 カジさんがあのラストシーンを撮影したのは、いったいいつなのか?
 もしかして彼が死んだ後の冬ではないのか?
 そしてあの三年四組の教室は、本当にこの世界の教室なのか?
 ……色々な疑問が浮かびました。もちろん、カジさんの両親に、そんなことを訊ねる訳にはいかないのですが。

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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityo

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