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母のお気に入りの帯留めの秘密
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

母のお気に入りの帯留めの秘密

 母は着物が好きな人です。  
 私はその方面に詳しくないので、どれだけ高級なものを持っているかはわかりません。それでも多少のこだわりや、趣味といえる程度のコレクションはあるようです。
 昔は、デパート催事場での和装販売などに、よく私を連れて出かけたものです。幼い私は、それが楽しみでもありました。オモチャを買ってもらえるというのもありますが、縮緬ちりめん更紗さらさの美しい柄、かわいい小物類を眺めるのも嬉しかったのです。

「でもこういうのを買うときは、気をつけた方がいいのよ」
 古布などに興味を示す私を見て、母は何度か注意してきました。全くの新品だけでなく、和服は仕立て直しやリサイクルが多いものです。そうした布や帯や小物は、どんな人が着ていたかわかりません。
 また日用品と違って、着物類を手放す時は、深刻な事情が絡んでいる場合が多いから、とも言っていました。もともとはお金持ちだった家が、没落したり借金を重ねてやむなく……といったような。
「色々な念がこもっている物も、あるだろうからねえ」
 
 私が母と同じ趣味を持てなかったのは、そんな風に聞かされてきたからでしょう。
 しかも我が家には、母の説を裏付けるような品があったのです。
 
 帯留め、というのをご存じでしょうか。
 帯を締める細い紐に固定する、小さなアクセサリーです。
 母が愛用していたのは、菊を模した本珊瑚さんごの帯留めでした。
 
 それ自体は可愛らしいものです。でも和装の場合、組み合わせや季節ごとのルールがあるはずです。母もそこに気をつかわないはずがありません。
 それなのに、どんな装いの時にも、母はその帯留めを着けて出かけるのです。
 そして必ず、小さな怪我をして帰ってくるのです。  
 帰宅後に帯を解き、襦袢じゅばんまで脱いだ母のおなかには、いつも四つの細いミミズ腫れがありました。
 四本の爪でひっかいたような、赤い線。それが白い肌に生々しく残っているのです。
 また、その傷は、帯留めの位置をずらせば、ずらしたなりの箇所につくのだそうです。
「そんな呪われているようなもの、どうして早く捨てないの」
 私がいくら主張しても、母は黙って微笑むだけだったのです。
 結局、十年以上もの間、母はその帯留めを使い続けました。
 

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityo

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