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目覚めると、身に覚えのない血の跡が……
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

目覚めると、身に覚えのない血の跡が……

 この前、僕が荷物搬送のアルバイトをしていた時だ。
 一日だけコンビを組んだ五十代のオジさんが、運転中にこんな話をしてくれた。
 彼の友人で、やはりドライバーをしている男の体験談だという。
 
 ある朝、わけもなく不安になり目が覚めた。
 布団から体を起こすと、そのまま足が車庫へと向いていく。自分の車は、きちんといつもの場所に収まっていた。しかし右のヘッドライトだけがいつもと違っていた。
 なにか赤黒いものが、べっとりとそこに張りついている。
 からからに乾いた血でこわばった、髪の毛の束だった。
 車に向かって深々とおじぎした人の頭を、ブレーキも踏まずにはねれば、このようなものがくっつくだろうか。
 あわてて記憶をめぐらせてみる。昨夜は仕事からの帰り、毎日通るルートでこの車を走らせた。酒など一滴も飲んでいない。なんの異常もなくスムーズに帰宅したはずだ。
 いや、一度だけ、車体がガクンと傾きはした。ただそれは、ショートカットのため、未舗装の農道を走っていた時のこと。畑にはさまれたあの道は、一か所だけ大きなへこみがあり、そのポイントを通る一瞬だけ、車が右側に沈む。何か月も前からの、いつものことだ。
 
 ──なにもない。なにも起きてはいない。
 その日は、車用洗剤で丁寧にヘッドライトを拭いてから出勤した。
 

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityo

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