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祖母に禁じられた遊び
めくるたび、どんどん怖くなる。 『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。 1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

祖母に禁じられた遊び

 子どもの頃、こっそり隠れてする遊びがありました。
 私の実家は、四国の田舎町です。
 そのためか、「しょいかご」というものを倉庫に置いていました。竹で編んだ大きめの籠で、背中にしょって荷物を入れる、昔のリュックサックですね。
 幼い私は、それを頭からかぶって、ぐるぐる回るのが好きでした。
 すっぽり入れば胸までくる大きさですが、それだと頭のてっぺんにぶつかって、ずれたり跳ねたり安定しません。なので、だらりと垂れたしょい紐に、あらかじめ左右の腕を通しておきます。その両腕をぴんと横にはり、籠を肩に乗せるようにかぶれば、ちょうどよく固定されるという訳です。
 そして、ぐるぐるぐるぐる……体を回転させていくのです。
 するとだんだん酔っぱらうような感覚になり、籠の目の隙間から、おかしなものが見えてくるのです。
 
 まず、細かい編み目からわずかに覗く外側が、きらきら輝いていきます。
 太陽や照明の光ではありません。
 不思議な紫がかった閃光が、だんだんと籠の外に広がっていくのです。
 それでもまだ、ぐるぐるを続けていきます。
 すると今度は、白く細長いものが浮かぶのも見えてきます。
 ミミズみたいですが、もっとスラリとした、絹の糸のような質感です。
 きらめく紫色の世界に、白いくねくねが、たくさんたくさん飛んでいる。
 そんな美しい光景を、両手を伸ばして回りながら、うっとり見つめていたものです。

 ただし、その最中は人目につかないよう注意しなければいけませんでした。
 祖母に見つかると、こっぴどく?られるからです。
「何しちゅう! こがなこと、どこで覚えてきたが!」
 すごい剣幕で籠をとりあげられるのです。けっこうな強さで頭を叩かれ、泣きわめいたこともありました。
 祖母がぐるぐる遊びを忌み嫌っていたのには理由があります。
 

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

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