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日めくり怪談 7月18日
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの最新書き下ろし怪談集『日めくり怪談』刊行を記念して、本文の中から選りすぐりのお話を一挙掲載。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

日めくり怪談 7月18日

荻窪おぎくぼ駅の近くって、異世界に通じているみたいですよ」
 知人のサトシくんが、そんな怪情報を教えてくれた。
 荻窪出身のサトシくんには、昔から地元民の友達が多い。どうもここ最近、彼らがその辺りで奇妙な体験をしたという話をよく聞くそうなのだ。しかもその全てが、荻窪駅と新荻窪駅の中間という、徒歩三分ほどの狭いエリアで発生している。

 例えばサトシくんの女友達が、JR荻窪駅から私鉄に乗り換えるため、新荻窪駅へと歩いていた途中。いつも利用しているコンビニ「L」に入ろうとしたところ、店舗が、同じコンビニでも「F」に様変わりしていた。 
 小さい頃から通い、店員とも顔なじみだった「L」がつぶれたのは、それなりにショックだった。悲しくなった彼女は店に入るなり、「ここ、いつオープンしたんですか?」とスタッフにたずねてみた。すると店員は不思議そうな顔で、こう言ったのだ。
 ──この店、もう十年以上前からずっと営業してますけど。
 
 また別の女性は、こんな体験をしたという。
 彼女も同じように、荻窪駅から新荻窪駅に向かっていた。両駅をつなぐ道は、乗り換えのための人々がたくさん歩いている。彼女はうつむきがちに歩きスマホをしつつ、同じ方向へゆく人波についていった。一、二分ほどそうしていただろうか。ふと顔を上げると、先ほどまで近くにいたはずの人々が全て消えていたのである。しかも自分自身が、全く見覚えのない場所に立っているではないか。駅近くのはずなのに、周りは田畑ばかり。
 慌てて見渡すと、あちこちに大きな看板が点々と設置されている。しかしそれらは全て、日本語でも英語でもない奇妙な言葉で書かれ、どうにも判読できない。強いて言えば、アラビア文字とハングル文字を合わせたような字体だったらしい。
 スマホを確認しても、圏外のため反応なし。途方に暮れながらふらふらと歩いているうち、いつのまにか、なじみある新荻窪駅の裏手に出たのだという。
「他にも色々聞きましたが、ぜんぶ、荻窪駅から新荻窪駅に乗り換える途中の出来事ってのが共通してます。そのルートに、なにか不思議な境界でもあるんでしょうか?」
 
 そんな話を聞いたのが、数日前のこと。
 なるほど奇妙なことだと思った私は、帰宅後すぐにネットの地図を確認してみた。しかしいくらクリックしても、なぜか「新荻窪」という駅が表示されないのだ。
 そんなはずはない。私も東京育ちなので、荻窪には数えきれないほど訪れている。新荻窪駅だって、JR中央線からあの私鉄に乗り換えるのに何度も利用しているし……。
 そこで、はたと我に返った。その私鉄はなんという名前の路線だ? 新荻窪という駅なんて、いつどこで存在していたというのか? いっさいなにも思い出せないではないか。
 でも、だったらなぜ、新荻窪駅があるという記憶が、ついさっきまで鮮明に私の中に残されていたのだろうか。
 後日、サトシくんに会った際、この件について確認してみたのだが。
「なに言ってるんですか、そんな話、してませんよ」
 驚いた顔で、そう返されてしまった。

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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityo

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