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内線電話から聞こえてくる声
めくるたび、どんどん怖くなる。 『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。 1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

内線電話から聞こえてくる声

 私の実家は、佐賀県で会社を経営していました。同じ敷地内に事務所と自宅があり、二つは内線電話で繋がっていたのです。
 小学生の私はたいへんな甘えん坊で、たびたび事務所に内線をかけ、母親を呼び出していました。プルルプルルと呼び出し音を鳴らせば、すぐに母が電話をとってくれます。
「お母さん! お母さん! タケシやけど!」と私が言い、
「なんね? タケシ! どがんかしたとね?」と母が応える。
 これが毎回の、私と母とのやりとりでした。
 
 あれは確か、小学校五年生の夏休みだったと思います。
 昼間、例のごとく大した用事もないのに、仕事中の母に内線をかけました。
 プルルプルル、カチャッ、と母が電話を取ったと感じた瞬間。
「お母さん! お母さん! タケシやけど!」
 ところが、いつもはすぐ返ってくる母の答えがありません。
「あれ? お母さん! お母さん! タケシやけど!」
 明らかに電話は繋がっていました。どうしたんだろう、と不思議がっていると。
 
 ……ぁぁん……さぁーん……
 
 受話器の向こうから、声が微かに響いてきました。小さいというよりも、誰かが遠くから発しているようでした、最初は、受話器に耳を押し当てないと全く聞き取れませんでしたが。
 
 ……ぁさぁん……ぁぁさぁん……
 
 だんだん、その声が受話器に近づいてきます。
 
 ……ぁぁさぁぁん……かぁぁぁさぁぁん
 
 なんだろう、とすました私の耳に、

「おかぁぁぁぁさぁぁぁん!」

 いきなり悲鳴がとどろきました。
 びっくりした私は受話器をたたきつけ、通話を切りました。しばらく放心状態のままでいると、たまたま父が事務所から帰ってきました。
 

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

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