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日めくり怪談 7月12日
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの最新書き下ろし怪談集『日めくり怪談』刊行を記念して、本文の中から選りすぐりのお話を一挙掲載。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

日めくり怪談 7月12日

 よく「猫の死体を見ても、かわいそうと思ってはいけない」と言うでしょう。
 あれってどんな理由なんでしょうね? かわいそうと思ったらとりかれるから? 人間や犬はいいけど、猫だけは哀れんだらダメなんですかね?
 それと関係あるかわからないですが、僕の思い出話を一つ。
 小学四年生の時です。毎日一緒に登校しているA君と、いつものように学校に着いたんですね。
 でもその朝だけ、変なものが目に入ってきました。
 校門の両脇、門柱というんですか、あの石の上から、猫の手が飛び出してたんですよ。
 そう、猫の手です。作り物なんかじゃなく、本当の動物の猫の、手。肉球も見えたから間違いない。茶色いからトラ猫だったのかな……。
 それが一本だけ、門柱から上にピョコリと突き出てる。しかもまだ生きてるのか、くいくい、こちらを手招きするみたいに動いている。
「A君たいへん。猫がうまってるよ」
 全く意味がわからないまま、僕はA君にそうささやきました。
「猫?」A君はいぶかしげに僕の指差した方を向いて、「なに言ってんの?」と返してきます。
 え、あれは僕にしか見えないのかな? そう思った矢先、A君が興味なさげな口調で、こう言ってきたのです。
「ただの、大きい、ツクシだろ」
 そしてそのまま、さっさと校舎の方へ歩いていってしまいました。
 
 ……これっていったい、なんなんでしょう?
 僕には猫の手に見えたものが、彼には大きなツクシに見えた。
 でも門柱からツクシがはえてるのだって、じゅうぶん奇怪なことじゃないですか。それをあんな、さも当たり前のように通り過ぎるなんて……。
 釈然としないまま、その日一日、もやもやと混乱していたのを覚えています。
 まあ子どものことなので、翌日にはすっかり気持ちも切り替わったんですけどね。
 ただ、その次の春のことです。
 近所の公園にちょっとした小山があるんですが、そこにふらりと遊びに行った僕は、全身鳥肌まみれになりました。
 ざわざわとはえている沢山のツクシたち。
 それがみんな、小さな猫の手みたいに見えてしまったんです。
 いやもう、A君のせいですよ。
 春になるといつも、おばあちゃんがつくってくれていたツクシの卵とじ。
 それがもう二度と食べられなくなってしまったんですから。
 

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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityo

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