よみタイ

駅のホームにいる男の子、手を振る先に……
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

駅のホームにいる男の子、手を振る先に……

 一年ほど前の話です。
 私は出勤のため毎日、最寄り駅を朝六時十二分に発車する電車に乗っています。早い時間なので、駅のホームには自分を含めて五、六人ほどしか電車待ちをしていません。
 その中の一人に、ランドセルを背負った男の子がいました。
 まだ小学校に入りたてでしょう。かわいらしい制服の彼を見て、「小さいのに、毎朝早くから一人で学校に通ってるのかあ、偉いなあ」と思っていたものです。
 
 そのうち、あることに気づきました。
 彼が向かい側の下り方面のホームに向かって、手を振るようになったのです。なにげない感じで、無表情に近い顔で、やや斜め前の方向に。
 電車が到着するまで、ずっと、そうしています。私と同じ車両に乗った後は、ターミナル駅につくまで大人しく座っているだけ。
 
 最初は「向かい側に知り合いでもいるのかな」と思いました。彼の動作があまりに自然だったので、なにも違和感を覚えませんでした。
 でも、反対ホームには誰もいないのです。彼は無人の空間に向かって、手を振っていたのです。考えてみれば、郊外の小さな駅で、こんな早朝に下り路線を使う人はめったにいません。
 次の日も、その次の日も、彼は毎日、なにか見えないものに向かって手を振り続けています。一週間、十日経っても、同じ動作をやめません。
 私はなんだか、それを見るのが怖くなってきました。
 親に挨拶しているような自然な素振りが、よけいに不気味に感じられて。
(彼にいてみようか? なんで手を振っているのかを)
 そう思ったりもしました。でも怖くて聞けない、でも毎朝見るから気になってしまう。

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityo

週間ランキング 今読まれているホットな記事