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人事異動を楽しそうに語る人には、なりたくない! “群れ”に巻き込まれる男性、“正義感の壁”にぶち当たる女性
女性や多浪生を不利に扱った東京医大の不正入試問題、頻発する就活セクハラ。 事件が起こるたび問題提起がなされても、女性差別案件が次々に湧いてくるのはなぜなのか。 一見リベラルに見えながら、その実まったくそうではない男性も少なくない中、ジェンダー問題に斬り込み続ける武田砂鉄さんに、アエラ編集長時代の浜田敬子さんが原稿を依頼したのは数年前。その後、武田さんの著作や連載を追い続け、このたび、初めてゆっくりと話す機会を得ました。 武田さんは出版社社員時代、浜田さんは新聞記者時代のそれぞれの経験談から、世代、性別を超えてジェンダー問題を語り合う2時間!!

人事異動を楽しそうに語る人には、なりたくない! “群れ”に巻き込まれる男性、“正義感の壁”にぶち当たる女性

群れにいると、個人は弱体化しかねない

浜田 武田さんとは以前アエラ時代に原稿もお願いし、お書きになったものも読ませていただいていますが、ジェンダーについてこれほど理解がある男性はほかにいないと思っています。かなり前から関心がおありだったんですか。それともライターのお仕事をされるうちに?

武田 自分は31歳のときに出版社を辞めましたが、会社組織ってものにさほど馴染めず、このまま続けていたらどんどん馴染めなくなっていくな、と思っていました。そう思うようになったきっかけがいくつかあります。ひとつは、大手取引先の人事異動一覧がファックスで送られてきたときのこと。おじさんたちが1人の席に集まり、その一覧を見ながら「あいつ、〇〇の支店長か。異例だな」とか「あいつはどうやら飛ばされたらしい」などと、実に楽しそうに話し始めて。

浜田 わかります。私が勤めていた新聞社も、毎年人事発表のときはそんな感じでした。

武田 社会人になってからずっと「どうやったら組織の群れ=男たちの群れに参加しなくてもすむんだろう」と考えていた気がします。そうやって考えているってことは、「やっぱりこれに参加したらおしまい」と予防線を張っていたということ。もともと、体育会系社会が嫌いでしたから、その思いをしつこく保っていたのだと思います。

浜田 学生時代にバレー部で嫌な経験をされたと、以前書いていらっしゃいましたね。

武田 そうですね。“社会に入って、男たちの群れの中にいないようにする”って、やっぱり難しいんです。よほど意識的でないと、気づけば群れの中にいるから。

浜田 そういうお考えには、ご家族や育ってきた環境の影響もあるのでしょうか。

武田 環境のせいかどうかはわかりませんが、昔から男女問わず群れている状態が好きじゃないんです。たとえば5人で群れているとしたら、そこで5人の本音が炸裂することってなかなかない。そういうときの個々を分析するのが好きで(笑)、「こいつは真逆のことを思っているはず」「本音ではしゃべっていないな」などと感じ取っていた。でも自分が実際にそういう群れに参加すると、自分もいつの間にか簡単に嘘を言い始めたりするんです。当然、あとで自己嫌悪に陥る。ならば、「こういう場にいないようにするためにはどうすればいいんだろう」と、長年考えてきた気がします。

浜田 男性は群れるというか、徒党を組んだり派閥を作ったりするのが好きですよね。部活でも会社でも。

浜田敬子氏
浜田敬子氏

武田 尊敬するルポライター・竹中労さんの言葉に「人は、無力だから群れるのではない。あべこべに、群れるから無力なのだ」というものがあります。それをしょっちゅう思い出しますね。群れの中にいると心地いいし、かたまりとしてはパワーを持つけれど、個人が弱体化しかねないことを忘れてはいけないと思います。

浜田 男性が会社に入ると、どうしても男組というか派閥というか、そういうものに巻き込まれるじゃないですか。そのときのプレッシャーがどんなものか、私たちにはわからないんです。女性は最初から頭数に入ってないし、仲間とも思われないので。

武田 自分が働いていたのは中規模の出版社でしたが、それでも派閥らしきものがありましたね。会社の上の人たちは、“こちらサイドの人間っぽくすること”を強いるマウンティングを、男性の若手にしてきた。女性の同期にはしていなかったように思います。

浜田 女性が派閥に入ろうとするときは、「私はあなたたちと同じです」というプレイをしなければならないんです。下ネタに付き合うとか、「お酒を飲める」と思わせるとか。

武田 そのプレイは実に酷ですよね。逆に男性はそのプレイなしに、許諾なしに、男組に加入させられてしまう。実に面倒くさい。だから若い頃から「これを続けていたらいけない」とは考えていましたね。

男性に用意されている “生意気な若者”という椅子

浜田 最近は「下積みがイヤだ」という理由でマッチョな体質の会社を辞める若手男子がすごく多いんです。でも、彼らが言っているのは本来の下積みじゃない。一気飲みをやらされるとか、最後まで職場に残っていなければならないとか、意味がないことをやらされるという下積み、つまりマチズモのかたまりのようなヒエラルキーの中にいるのがすごくイヤだと。武田さんは彼らより少し上の世代ですが、組織の中で「NO」と言えたのはすごいと思います。でもいつの時代も、イヤなことをうまくやり過ごせない人、耐えるしかないと思っている人もいますよね。

武田 いや、でもおじさんたちは、基本的に逆らう若者が好きなんですよ。

浜田 元気がいいから、ですか?

武田 それもあるし、反抗的な若者を受け入れる度量を見せておきたいという気持ちがあるはず。逆らっている若者を良しとするんです。「またアイツが生意気言ってるよ(苦笑)」って。だから、ある意味動きやすい構造の中にいたと今になって思います。ただ、“生意気な若者の椅子”って、男にしか用意されていないんです。“生意気な女性の若者の椅子”はない。大きな違いだと思う。男って有利なんです。

浜田 武田さんと同じことを女性がやると許されないんですね。

武田 無理やり女性にも椅子を作ると、「なんで椅子を作るんだ。これで男の椅子がひとつ減るじゃないか」ということになる。政治の世界がまさにそうですよね。だから自分は、生意気言っていたとしても、あらかじめ用意された椅子に座っていただけなんです。楽なんです、男の生意気は。自分が生意気をやっているときに、そうしたくてもできなかった女性もいたのではないか、なんで何も言えなかったんだろうなと、あとになって気づきましたね。

武田砂鉄氏
武田砂鉄氏

浜田 私は20代の頃、上司と意見が合わなくて、半年ぐらい口を利いてもらえなかったことがあるんです。あとで先輩に「丁寧に話したつもりかもしれないが、お前の言い方が悪い。ああいうときにはやり方がある」と言われて、そのやり方を教えてもらいましたが、「男性はどうやってこうしたお作法を学ぶんだろう」「どうしたら秘伝のタレみたいなものが手に入るんだろう」とすごく不思議でした。それから男性は、「誰が誰をかわいがっている」「誰と誰は仲が悪い」みたいな人間関係を知るのもうまい。それも不思議でしたね。

武田 入社したばかりのころ、ある集まりの席を決めるのに不公平にならないようにクジで、ということになった。で、たまたま自分がその係でしたが、「管理職のAさんとBさんが隣にならないようにクジを加工すべし」と言われて(笑)。

浜田 ドラマみたい(笑)。これが仕事か?と思いますよね。

武田 でも、もし、それを5年も10年もやっていたら慣れてくるじゃないですか。「あの人とあの人をくっつけないのはこの会社のルールとして当然なんだ」と。毎回、疑問に思い続けるのって結構タフなことだと思います。仕事で忙しいのに「これでいいんだろうか」と考えるのはやっぱりしんどい。

浜田 確かにそうですね。

武田 「クジ、加工しとくか」って思ってしまいますよ。だって、そのほうが早く家に帰れるから。

浜田 でも、武田さんにとってすごくストレスだったわけですよね?

武田 ある意味で客観的に「何だこれ?」と思ってはいたので、真正面からストレスを感じていたわけではありませんが、「このままじゃダメだ」という危機感はありましたね。

浜田 私は企業の女性管理職向け研修の講師をときどきやっていますが、「女性管理職の10の壁」のひとつとして「正義感の壁」ということを挙げるんです。

武田 正義感というと?

浜田 たとえばさっきのクジの話の場合、「なぜクジをやるんですか?」と言うのが一種の正義感。それまで蚊帳の外にいた女性が初めてクジ加工の現場に立ち会ったら、前例がわからないから「こうしたほうがいいのでは」と気づいたことを言うと思う。でもそれをストレートに出すと、周囲にハレーションを起こすんです。その結果、「あいつは会社というものをわかってない」と思われ、徐々にその場に呼ばれなくなり、孤独になり、最悪の場合はメンタルに不調をきたしたり、上の人たちからつぶされたりする。でもそうなってしまうのは本当にもったいない。絶対阻止したいんです。だから正義感を持つのはいいことだけれど、その出し方は慎重に戦略的にした方がいいと思います。政治力なんて本当はきらいですが、「自分がやりたいことを実現するためにはときには政治力は必要」と、管理職になったばかりのころ、他社の女性役員に教わりました。

武田 それが面倒くさいんですよね。30歳を過ぎたとき、「今までは個人管理で“生意気な若者”をやっていられたけど、そのうち部下がいる立場になったらそれも無理」と思ってしまったことも、会社を辞めた理由のひとつかもしれません。

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新刊紹介

武田砂鉄

たけだ・さてつ
1982年生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。2015年『紋切型社会』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。他の著書に『日本の気配』『わかりやすさの罪』『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』『べつに怒ってない』『今日拾った言葉たち』などがある。週刊誌、文芸誌、ファッション誌、ウェブメディアなど、さまざまな媒体で連載を執筆するほか、近年はラジオパーソナリティとしても活動の幅を広げている。

浜田敬子

はまだ・けいこ●1966年山口県生まれ。ジャーナリスト。上智大学法学部卒業後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」編集部を経て、1999年から「AERA」編集部。2014年に女性初の「AERA」編集長に就任。17年に退社し「Business Insider Japan」統括編集長に就任、20年末に退任。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニンショー」、TBS「サンデーモーニング」などでコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティに関しての講演を行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)がある。

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