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「誰と誰の顔が似ている」が気になる人、必読! 旧作邦画マニア・のむみちが語る、姫野カオルコ『顔面放談』の魅力

好評発売中の姫野カオルコさんによるエッセイ『顔面放談』
姫野さんが著名人の顔を観察し続けてきた成果がいかんなく発揮された本書の魅力を、「旧作邦画マニア」で、チョーコニスト(女優・飯田蝶子ファン)ののむみち氏が解説します。

「ぬお~~~っ、姫野カオルコさんのアノ連載が早くも単行本化! しかも表紙に飯田蝶子キタ~~~っ!」

 個人的ライフワークの『名画座かんぺ』のため、Amazonで新刊情報を収集していたとき思わず心の中で快哉を叫んだ。
『名画座かんぺ』とは、自分が2012年から毎月発行し続けている都内の名画座5館(新文芸坐・神保町シアター・ラピュタ阿佐ヶ谷・国立映画アーカイブ・シネマヴェーラ渋谷)のひと月分の上映スケジュールをB4サイズのペラ1枚にまとめた、名画座ファンのためのフリーペーパーである。古書店勤務で元来本好きなこともあって、裏面には、その月前後に刊行される映画関連本情報を掲載、当然、本書『顔面放談』も書影付きで大きく取り上げた。
 なにしろ自分は、自他共に認める「チョーコニスト」(女優・飯田蝶子ファン)なのである。

 ある時、SNSで繋がっているフードライターの白央篤司さん(旧作邦画好きでチョーコニストでもある)からメッセージをいただいた。「姫野カオルコさんが集英社のPR誌『青春と読書』で飯田蝶子のことを書かれていますよ」。白央さんには、過去にも貴重な蝶子情報を教えていただいていて密かに頼りにしているのだ。そりゃ大変、と鼻息荒く書店をハシゴするも、そもそも出版社のPR誌はいつでも置いてある訳ではないため、この時も、結局自力では現物を入手すること叶わず、白央さんの更なる協力を得てようやく読めた次第。これが私の、本書の元となった連載との出会いである。(編集部注:『青春と読書』は過去1年間のご希望の号を1冊に限り無料でお届けできます。毎号入手したい方はぜひ年間定期購読を!)

 その飯田蝶子の回で、著者は、蝶子の笑顔について「たましひが救わ」れ、「しみじみと幸福感に満たされ」ると書き、「笑った飯田蝶子は、ものすごくものすごく美しくチャーミングである」と断言している。
 こんなん、日本の全チョーコニストが泣きますって。
 

全国のチョーコニストを狂喜させた、もんでんあきこさんによる挿絵。その「顔力」により、カバーデザインにも堂々の登場となりました。
全国のチョーコニストを狂喜させた、もんでんあきこさんによる挿絵。その「顔力」により、カバーデザインにも堂々の登場となりました。

 著者の姫野カオルコさんは、幼少時より映画(主に洋画)に親しみ、そしてあろうことか、高3のときに、大学受験を目前に控えながら、TVで連日浴びるように昭和30~40年代の邦画を見てすっかり旧作邦画にハマられたという。そのときの映画的環境のせいで同世代とズレてしまい、「そばに話し相手がなく、かつては、さびしい気がしないでもなかった」と書く当時の著者を思わず抱きしめてあげたくもなるのだが、本書は、そんな著者による、古今東西の主に俳優の顔についての様々な考察をまとめた本である。
 旧作邦画の楽しみ方はいろいろあれど、自分の場合は完全に、「役者」で観ている。そしてやはり、俳優は「顔」だと思う。昭和30~40年代の日本映画黄金期は、大きなスクリーンに映るに耐え得る「顔力」がある俳優がなんとたくさんいたことか。本書は、映画を役者の顔で愉しむ楽しさを教えてくれる。

「誰と誰の顔が似ている」が気になる人必読

 本書の一番の肝は「顔面相似形」。つまり、「〇〇と△△は似ている」である。
 そもそも旧作邦画ファンはとかく「似ている」ネタを探しがちだ。自分も例外ではない。そんな人間にとって、本書が面白くない訳がない。
 
 例えば、名画座ファンの間では、かなりの旧作邦画マニアとして知られる音楽家の小西康陽さん。「とにかく自分は映画を観ている間ずっと誰が誰と似ている、ということだけを考えております」という、以前SNSに書かれておられた言葉通り、何か見つける度に「似ている」ネタを投稿。2019年に刊行された『わたくしのビートルズ 小西康陽のコラム1992-2019』(朝日新聞出版)の中でも、膨大なページ数の中のわずか1ページ弱ではあるが、小西さんがそれまでに《発見》した「似ている」ネタの一覧が堂々と設けられているほど(余談ながら、自分が一番好きな小西さんの《発見》は、「葉山良二と西岸良平の描く男の人」です)。
 と、ここで小西さんと著者が同級生であることにふと気づく。旧作邦画好きな同級生お二人による「顔面相似形対談」なんてのも読んでみたい気がする。
 
 ちなみに、本書を読みながら膝を打ちまくった箇所に、森雅之の声、がある。モリマ声(自分の周りではみな、森雅之のことを「モリマ」の愛称で呼ぶ)の残念さは、旧作邦画ファンであれば大部分が思うところ。モリマ声の俳優は他にもいて、例えば根上淳。さらに、自分が贔屓にしている東宝の脇役で西條悦郎(a.k.a西条竜介、顔面相似形でいうと中条静夫似)という俳優がおり、そもそも台詞がある役自体が少ない俳優なのだが、『野獣死すべし』(’59東宝)では結構台詞もある役で、その声を聞いた瞬間あまりのモリマ声に驚いた。やはり東宝脇役マニアで西條悦郎のことも知る知人と盛り上がったものである。
 声が残念といえば、諸角啓二郎という俳優も、せっかくの悪役顔なのに声が高めで、あれで声が良かったらもっともっと活躍していたのでは、と思わせられる。
 あぁ! あの顔、あの声……本書を読んでいると俳優たちのいろいろな印象が溢れ出てしまう。
 
「きれい・好き・うらやむ・なりたい、四種の顔」の章では、筆者は自身のコンプレックスや、いかに自身が「ネガティブシンカー」であるか、赤裸々に書き綴っている。容姿だけではなく、何かしらのコンプレックスを抱えて生きている人は、きっと勇気づけられることと思う。「私だけじゃないんだ」、少なくとも自分は勇気づけられ、ちょっと笑ってちょっと泣いた。
 抱腹絶倒のノリで始まる「誰かと誰かが似ている」エッセイ本、と軽く読ませて笑わせておいて、と思いきや途中で泣かされもする(古尾谷雅人の回も白眉)、大変お得感のある一冊である。

 本書には単行本のボーナストラックとして著者による「ヒメノ式追伸」というコーナーがあるので、あやかって最後に、「ノムミチ式追伸」を披露させてもらいたい。
 私の渾身、最大級の「顔面相似形」的《大発見》は……「淡路恵子(若い頃)とカッパのカータン」です!!

『顔面放談』好評発売中!

集英社 価格1760円(10%税込)
集英社 価格1760円(10%税込)

著名人の顔を凝視しつづけて半世紀――直木賞作家・姫野カオルコの並々ならぬ観察眼が炸裂する、捧腹絶倒のマニアック・エッセイ!
漫画家・もんでんあきこによる豪華挿絵つき。
●原節子を画像検索した人が陥る「トラップ」
●小池栄子の顔の最大の魅力とは?
●中川大志も⁉ 大河ドラマに生息する「イケメン科ショールーム属」
●松田優作ファミリーから考える、顔の輪郭とカップルの相性の意外な関係
●「世界で一番美しい少年」と言われたスウェーデン人俳優のその後……etc.
確かな観察眼に裏打ちされた全20章。
『顔面放談』の詳細はこちら

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のむみち

フリーペーパー『名画座かんぺ』発行人。南池袋・「古書往来座」店員。『名画座手帳』の企画・監修。宝田明著『銀幕に愛をこめて ぼくはゴジラの同期生』(ちくま文庫)の構成。アプリ版ぴあ「水先案内人」。「宮崎日日新聞」にて「のむみちの名画座タイムス」連載中。

Twitter(X):@conomumichi

姫野カオルコ

ひめの・かおるこ
作家。姫野嘉兵衛の表記もあり(「嘉兵衛」の読みはカオルコ)。
1958年滋賀県甲賀市生れ。『昭和の犬』で第150回直木賞を受賞。
『彼女は頭が悪いから』で第32回柴田錬三郎賞を受賞。
他の著書に『ツ、イ、ラ、ク』『結婚は人生の墓場か?』『リアル・シンデレラ』『謎の毒親』『青春とは、』『悪口と幸せ』などがある。

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