2025.4.7
村上春樹に毒づきながら白湯を飲む。それが私の「朝活」です!【爪切男『午前三時の化粧水』一部試し読み】
書籍の試し読み企画として、全38篇の中から著者・爪さんがセレクトしたエッセイを、その理由も添えてお届けします。

「村上春樹の真似っこをしてみよう」
もう何度目の挫折かは覚えちゃいない。執筆に行き詰った私は、世にも畏れ多い打開策を思いつく。売れない作家の私では、村上春樹の文章を模倣することすら難しいだろうが、その執筆スタイルぐらいは真似ることができるやもしれない。
毎朝4時に起床し、4、5時間ほどかけて原稿用紙10枚分を執筆。どれだけ調子が悪くても10枚、どんなに筆が乗ろうとも10枚しか書かないのが村上春樹のやり口らしい。
深夜にならないと集中力を発揮できない完全夜型人間の私にとっては、未知の領域の話だ。
でもだからこそ試してみる価値がある。科学的な観点からも、人間の集中力がもっとも高まる時間帯は早朝だと証明されているらしい。
俗に作家という人種は、生活サイクルは各々違えども、みな自分だけのルーティンを持っている。私も作家の端くれとして、そろそろ自分のスタイルを確立しなければ。強い決意を胸に、スマホのアラームを朝4時にセットし、布団へと滑り込んだ。
それから半月ほどが経ち、ようやくわかったことがある。
「私は村上春樹にはなれない」
いや、最初からわかっていたことである。早朝から原稿とにらめっこを続けても、どうしても書けない、筆が乗らない、一文字も書けないなんて日もざらにある。これはもう性分として諦めるしかないのだろう。もとはといえば春樹も春樹だ。調子が良くても原稿用紙10枚分しか書かないなんて、ちょっと格好つけすぎだろう、いちいち癪に障る野郎だな。
ただ、早起きをすること自体は非常に気分が良い。何かと乱れがちな生活リズムもバッチリ整う。朝にフルーツを食べると体にいいと聞いて、積極的にバナナを食べるようにした。起き抜けの私がバナナを美味しそうにほおばる姿を見て、恋人は微笑ましい気持ちになるらしい。
まさにいいこと尽くめ。その点に関しては「サンキュー春樹」である。
という経緯で、すっかり朝型人間になってしまった私は、 「朝活」なるものを始めてみることにした。読んで字の如く、朝に活動をするから「朝活」である。仕事や学校に行く前の空き時間を、運動、勉強、趣味といった活動に充てることで、日々の生活をよりいっそう充実させようというのが「朝活」の目的である。ランニング、散歩、朝から一人カラオケ、近所の喫茶店にモーニングを食べに行くなど、自分なりの「朝活」をアレコレ試してみた結果、私が選んだのは「白湯」であった。
ルイボスティーを愛飲するようになってからというもの、マテ茶にハス茶にコーン茶と、あらゆる飲み物に興味津々な私。以前から気になっていた白湯に手を出すのには、絶好の機会というわけだ。 「白湯」とは一度沸騰したお湯を冷ましたもので、 別名「湯冷まし」とも呼ばれる。
健康と美容に関心を持つ人の間ではお馴染みのものとなっており、最近ではコンビニで白湯が売られているぐらいである。
作り方は簡単この上なし、やかんに入れた水道水やミネラルウォーターを火にかけて沸騰させるだけ。湯気が上がりやすいようにやかんの蓋を取り、泡がボコボコ出始めてからも15分ほど沸騰させ続けることが望ましい。あとは飲みやすい温度(50〜60度前後)まで冷まし出来上がり。
「白湯=味がしない」と思いきや、その日の体調によって味が明確に変わる。ストレスが溜まりがちなときはしょっぱく、寝不足のときは苦く、体がむくんでいるときはほんのりとした甘さを感じる。己の体調を知るためのバロメーター、それが「白湯」である。
主な効能としては、腸内の老廃物を洗い流すデトックス効果、ダイエット補助、美肌促進、冷え性改善などが挙げられるが、果たしてその実は?