2021.10.24
寿木けい『土を編む日々』特別番外編〜キャンピングカーの旅と料理
一番の楽しみは、食事です。
道の駅や地元のスーパーをのぞくだけでも、おもしろくてたまりません。新鮮な食材を手に入れたら、キャンピングカーの中の小さなキッチンで料理をします。キッチンには、ガスコンロと焼き網、フライパン、雪平鍋が各ひとつずつ。おのずと、焼く、茹でる、炒めるのうちのどれかでできる料理を作ることになります。手の込んだ「キャンプ飯」からはほど遠い、レシピと呼ぶほどのものでもないものばかりです。
『土を編む日々』のエッセイ〈恋人坂のアスパラガス〉に登場するアスパラガスは、喜多方市の直売所で手に入れたものを、写真のように網で焼いて、塩を振って食べました。一見細身のアスパラガスには、想像を軽々と超える旨味が詰まっていました。熱々にふうふういいながらかぶりついたおいしさは、忘れられません。これに、目玉焼きとソーセージ、コーヒー、雑誌で調べておいた人気のパン屋さんのパンを加えて、素晴らしい食卓になりました。
またあるときには、猪苗代湖の目の前に車を停めて、近くのスーパーで買った魚介や野菜、手作りの栃餅(直売所の方に作り方を聞いて、手間も時間もかかるその工程に気が遠くなりました)などを網で焼き、地酒と一緒に楽しみました。
また別のある日。たけのこや絹さやが登場しました。たけのこは朝掘られてからすぐに下茹でされたものが道の駅で売られていました。絹さやと一緒に炒めて、バターと醤油でさっと和えただけ。旅にきてよかったと思うのは、凝ったレシピよりも断然、こうしたごく簡単な料理を囲むときです。
使う調味料といえば、ほとんどが塩のみ。ほかにあると便利なのが、バターと醤油です。最低限の道具と調味料で何ができるか、自宅での調理とはまた違う知恵を使います。どこまで大胆に省けるかが問われているような気がするし、省くためには、「おいしいに決まっている」という、食材への信頼がなければならないとも思います。
せっかくの旅ですから、話題のレストランにも行ってみたいですし、ホテルで朝食をとることもあります。自炊、外食、中食(道の駅のお惣菜テイクアウトや、ベーカリーのサンドイッチなど)をうまく組み合わせながら、旅の食事をやりくりしています。