よみタイ

硫黄島の洞窟に置いてきてしまったもの…『海の怪』より「繋がってはいけない」
世界的大ヒット<リング>シリーズは、「貞子」の名とともに、日本ホラーの底深さを知らしめました。 「よみタイ」連載時から話題を呼んだ新刊『海の怪』は、25年に及ぶ鈴木光司さん自身の航海経験を中心に、海の仲間たち、知人友人から聞いた話をベースとしたもので、海の底知れぬ魅力と、海をめぐる無限の恐怖が入り混じる18エピソード収録。 怪談家の稲川淳二さんからは「心地よい恐怖に浸るうちに怪異な闇に呑み込まれてゆく極上のミステリーに酔い痴れました」と絶賛コメントが届いています。 この刊行を記念して、本書の中から著者の鈴木光司さん自らが「貞子よりも怖い!」と厳選したエピソードを、その理由とともに特別掲載。 スペシャル動画付きの全4回企画です!

硫黄島の洞窟に置いてきてしまったもの…『海の怪』より「繋がってはいけない」

〜「繋がってはいけない」について(鈴木光司)〜
防衛大生だった娘婿の身に実際に起きた出来事。
たまたま私もその場に居合わせて、身の毛がよだつ瞬間を共有することとなった。
新調したばかりの彼の眼鏡が割れた際の「パキッ」という音が今も耳に残っている。
目の前にいた眼鏡屋の店員も一緒にその音を聞いていた。
今どきの眼鏡は、フレムームが歪んだり、レンズに傷がついたりすることはあっても、そう簡単に真っ二つに割れることはない。
店員の知識と経験からしても、レンズがこんな割れ方をするはずがないという。
この世界には現世の者が決して繋がってはいけない場所があるのだとあらためて感じた。
白浜が血で染まった激戦地のペリリュー島オレンジビーチ。©highD/Shutterstock
白浜が血で染まった激戦地のペリリュー島オレンジビーチ。©highD/Shutterstock

 パラオ諸島のペリリュー島。
 赤道に近いこの島は、太平洋戦争の激戦地だ。
 太平洋戦争史上、最も激しい8時間とも言われるアメリカ軍のペリリュー島上陸作戦。さらに上陸後、2カ月あまりにわたって日米の死闘が繰り広げられた。
 約70年前、美しい白砂のビーチとサンゴ礁の青い海は、銃声と叫び声が交錯する中、流血で染まっていたのだ――
 船から上陸しようとするアメリカ軍を迎え撃つためには、通常であれば海岸線に機銃をずらりと敷設する。しかし、当然ながらアメリカ軍もそんなことは予想している。上陸作戦の前に、海岸線に向けて徹底的に絨毯爆撃を行うのだ。いくら機銃を並べても、大量の艦砲射撃と飛行機からの爆撃ですべてが破壊される。
 日本軍もそれを読んでいた。そこで、機銃は海岸線に一切置かず、島内の洞窟に保管しておくことにしたのだ。ペリリュー島のたくさんの洞窟を要塞化することで爆撃から逃れることとなり、武器をすべて洞窟に隠してアメリカ軍に大反撃し、大打撃を与えた。
 ペリリュー島の戦いでは、日本軍約10,500人中、生存者はわずか34名。しかし、洞窟陣地などを利用した日本軍の組織的なゲリラ戦法はアメリカ軍を苦しめ、のちの硫黄島の戦いへと引き継がれていく――

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鈴木光司

すずき・こうじ●1957年静岡県浜松市生まれ。作家、エッセイスト。90年『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。91年の『リング』が大きな話題を呼び、その続編である95年の『らせん』では吉川英治文学新人賞を受賞。『リング』は日本で映像化された後、ハリウッドでもリメイクされ世界的な支持を集める。2013年『エッジ』でアメリカの文学賞であるシャーリイ・ジャクスン賞(2012年度長編小説部門)を受賞。リングシリーズの『ループ』『エッジ』のほか、『仄暗い水の底から』『鋼鉄の叫び』『樹海』『ブルーアウト』など著書多数。
「鈴木光司×松原タニシ 恐怖夜行」(BSテレ東)期間限定放送中。

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