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「非公開の店」その1 〜福しま〜いつも「おいしい何か」が待っている

「綾子さんに聞けば間違いない!」――美味なレストランも気の利いた手土産もとびきりのお取り寄せも、おいしいものには死ぬほどうるさいギョーカイのみんなが頼りにするのが、フードパブリシスト高橋綾子のグルメ手帖。誰もがうなる美味の数々を惜しげもなく公開します!

この世には不条理なことがたくさんある。
レストランの予約もそのひとつでしょう。

会員制とか紹介制とか一見さんお断りとか、何だよそれ!って思います。
しかし私は職業柄、時々そんなお店に行けることもあり、そんな時は優越感に浸ってしまうお調子もんです。すみません。

ということで、「行けない店のこと書くんじゃね〜よ」って思う方もいらっしゃるとは思いますが、私のグルメ手帖には欠かせないお店なので、「非公開の店」としてシリーズ化させていただき、ちょいちょい書いていきたいと思います。

その第1回目は「福しま」です。

この店の魅力はなんと言ってもオーナーである福島直樹さんでしょう。
日本のレストランに革命を起こした人物のひとりです。

福島さんが手がけたお店はことごとく大ヒット、人々の記憶に残るお仕事をされてきました。その中でも「ボォナセ〜ラ」とお客さまをお迎えするイタリアン、白金のプラチナ通りにある看板がないお店、原宿の明治通り沿いで子豚を丸焼きしちゃうビストロ、イケメンシェフの鉄板フレンチはどれも前代未聞、前例のないレストランです。

そんな類を見ないレストランは魅力的で、そりゃあ予約が取れない。
だからこっそり予約をお願いできるようにとにかく頑張って常連になりましたよ。

その福島さんが、またひっそりとオープンした店が「福しま」です。

とうとうご自分の名前を店名にされ、あぁ、きっとこれが福島さんの代名詞となるお店なのだろうと思って訊いてみると「電話で店名を言うより、自分の名前の方が恥ずかしくない」と。

え?そんな感じ?

すると「横文字だと洋食感が出るし、和風だと和食感が出る。自分の名前だと何でも出せる気がした」とのこと。

私が好きなのは、福島さんのこのバランスなのです。
何も考えてないよ〜と見せかけて、しっかりと考え抜かれた根拠がある。
直感で決めているけれど実は論理が通っている。
すごい才能だな〜と思うのです。

ここにはほっこりする料理とおいしいお酒があり、スタッフとの会話が弾み、お隣さん同士が仲良くなったりする。
まるで福島さんのホームパーティに参加している感じ。
ひとりでもふたりでも大勢でも楽しめる、私にとってまさに理想のお店なのです。

ここで振る舞われるお料理は「おばんざい」「餃子」そして「おいしい何か」。

まずはカウンターに並べられる10種類以上の「おばんざい」を好きなだけいただきます。
目の前にあるものはひととおり食べたと察知すると福島さんが入れ替えてくれたり、「その器、こちらにいただいても良いですか?」とお客さま同士で声を掛け合ったりするのです。
遅い時間だと種類は少なくなりますが、「餃子」もあるし、「おいしい何か」にいたっては何種類でも作ってくれるので何時に行ってもお腹いっぱい食べられます。

お料理はどれも家庭の食卓にあるもの。
でもプロが作るのでそりゃおいしいです。
優しいけど決めるところは決めるって味です。

さらに言うと料理のバランスが絶妙なのです。
「何も考えてないよ〜、明日アレ作ろうか〜って作っているだけだよ」って福島さんは仰るけど、例えばこの「ミニトマト」。洗っただけですが欠かせないのです。

いろいろ食べていると何も味付けしていないものが欲しくなるもので、特に夜も更けてくるとつまみに最適!

こんなお店、他にありますか?
「おばんざい」を大皿で並べているところは多々あるけど、自分で勝手に取れないですよ。ましてや好きなだけ食べても良いなんて、だったら全部食べちゃうよって思うけど、いやいや、やってみるとできるものではないってことがよ〜くわかります。

だって「餃子」も「おいしい何か」もこの後に待ち構えているので。
こうやって書いていると、どうもこちらの気持ちを福島さんに見透かされているような……?

ということで「餃子」がいらっしゃいました。

う〜ん、良い焼き色。
タネは肉と野菜が半々くらい。特にすごいお肉を使っているわけではないのにおいしいから不思議です。
ちなみに「餃子」も何個食べる?って聞かれますよ。

ここから「おいしい何か」がどんどん出てきます。
こちらは名物「できたてホヤホヤのお豆腐」。

オリーブオイルとちょっぴり塩を振ったお酒に合うお豆腐。
ほんわかあったかくて、できたてのお豆腐って本当においしい。

「焼いた春巻」も塩胡椒でいただくとお酒がすすむ〜。

揚げないの?と訊くと「だって揚げ物が嫌だから」って、笑っちゃう。
中身は椎茸が重なっていました。椎茸の春巻、ポルチーニと間違えたほどおいしい。

「戴きものの柿を白和えにしちゃったよ」って、戴きものって言わなくても……。

この「鴨」をいただくと、福島さんってフランス料理出身なんだなってわかる。
火の入れ方、完璧です!

福島さんお気に入りの「天かぶ」はお漬物に。
あぁ、優しい。肉質がきめ細やかでやわらかく甘みもある。

ポリポリポリポリ、止まらない。

「鶏のもも焼きと縮みほうれん草」も塩胡椒でさっぱりと。
この量だからペロリと食べられる。

炭水化物は「辛い麺」にトライ。
見た目はまったく辛くなさそうだけど、混ぜると……、

ピリ辛になります。あとを引く辛さですね。このひと口サイズが良い!

ま〜だ食べられそうだね〜って出していただいた「トリッパ」。まろやかなトマトソースがたまらないのです。

残念なことに次に行かねばならず、ここでストップ。
まだ食べたかったなぁ。

でもこういうお店、誰でも考えつきそうなのにどうして今までなかったのだろう。
なぜ福島さんはこのスタイルにしようと思ったのだろう。

「週末、自宅に友人を招いてホームパーティーをやっていたんだよね。ここはその延長、家が店になっただけ。だからもう家でやらなくなっちゃった」ですって。

お店のガス台もフライパンも家庭用。家庭用の冷蔵庫の中にはスーパーで売っている調味料が入っている。普通の食材を普通の道具で作って何でこんなにおいしくなるかな〜。

「外食しておいしかったものって再現したくなるじゃない? レストランで働いている時はそれを作れるのが“賄い”。おいしいものができるとだんだん作るのが楽しくなって、追及していくようになるわけ。それが今はフランス料理でもイタリア料理でもなく、おばんざいなんだよね」、だそうです。

家では好きなものを好きなだけ食べるでしょう。それが叶えられる店がありそうでなかったから

福島さんが第一に考えているのは「店作り」。

自分がお店に立ってお客さまがいて、お料理があって、という理想の店作りを妄想し尽くす。そのイメージ通りの物件があった時にお店を作るそう。

どんな時も何を見ても頭の中で理想の店作りをしている。
だからプライベートと仕事を分けるという概念はない。
「ぼーっと生きてんじゃねーよ!」とチコちゃんに叱られることはないのです。

そもそも料理人になろうと思ったのは?と訊くと「料理人になろうなんて思っていないよ。デモシカ症候群だよ。料理デモやってみようかなと思ったらいつの間にか料理シカできなかったってことだよ」と仰っているけど、知ってます、料理が大好きだってこと。

「家では自分の好きなものを好きなだけ食べるでしょう。それが叶えられる店がありそうでなかったから「福しま」を作った」と。そうか、“家ごはん”を再現しているからつい寄りたくなってしまうのか。

みなさま、もし、この店を見つけられたらぜひ扉をあけてください。
心があったまるホームパーティーが開催されていますから。

「非公開の店」その2はこちらから

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新刊紹介

高橋綾子

たかはし・あやこ●フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレス時代から培った〝食″へのこだわりは、舌の肥えた業界人も頼りにするレベルの高さ。年間1000を超えるという外食の日々が築き上げたおいしいもの好きが嵩じて、ついに2018年2月に東京・下北沢にてレストラン「üchï(うち)」をオープン。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。
Facebook→https://www.facebook.com/ayako.takahashi.1671

uchi→http://uchi.tokyo/

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