よみタイ

漂白された出会い系? 経営学者がマッチングアプリに連戦連敗して見抜いた本質とは

あの頃は「簡単に出会える」と思ってました

(これなら、上手くいくかもしれない……)

 会員登録を済ませ、どんな機能があるのか一通り弄り倒した後、わたしはそう考えました。

 とりあえず、私が結婚できないことの原因の一つ(と当時考えていたこと)は、異性と出会う機会そのものが無かったことでした。大学の先生なんだから学内に女性はいっぱいいるでしょ、と言われますが、セクハラ・パワハラに厳しいご時世です。生徒どころか、女性職員に手を出そうものなら、失業しかねません。2002年に就職して以来、大学内で異性とは教育と仕事以外のコミュニケーションを取らないことを、徹底する癖が身についています。

 それでは趣味方面ではどうかと言うと、この頃の私の趣味は釣りとバイクです。男性中心の、一人でできる趣味しかありません。釣り女子とかバイク女子とかの用語が流行したこともありましたが、そんなものはマスコミの陰謀か都市伝説です。少なくとも私が行く釣り場やツーリング先は、50歳前後の男性しかいません!

 なので、結婚しようと思ったらまず、職場と関係ないところで異性と出会わなければならないのですが、仕事と研究の場面以外では基本的に引っ込み思案な私にはハードルが高すぎる。そう考えると、「恋人や結婚相手を探している異性」が会員登録していて、「会員同士で出会いの機会を得られる」というのは、異性に対してコミュ障の私には極めて魅力的に見えました。

 次に、アプリ利用が自分の婚活に向いているのでは、と考えた理由は、アプリには「条件で相手を検索する」という機能があることでした。マッチングアプリは個人のプロフィールを細部に至るまで登録しているデータベースであり、ユーザーは自分の望む条件を設定し、好みの条件に合致した異性を検索できます。

 当時の私の年齢は38歳で、曲がりなりにも公立大学の准教授です。同年代の男性と比較しても条件は良い部類に入る(はず)なので、少なくとも同世代の女性とマッチングするのは簡単なのではないか、と考えました。

 なにより、まず職業や年齢で検索されるのが良い!と当時の私は感じました。近年は各種媒体で顔写真付きでインタビュー記事が掲載されているので分かると思いますが、私は見た目にまず問題があり、女性に悲鳴をあげられた経験は幾度もありますが、モテた経験はありません! この見た目に、持ち前の異性に対するコミュ障のあわせ技で、日常的な出会いの場で彼女を作ることは絶望的な状態です。とはいえ、学歴や職業、年収といったスペックは結構整っています。アプリ上で条件検索されたら、それなりに女性の注目を集めることができるし、文章力はそれなりに鍛えているから、アプリ上のメッセージのやり取りでコミュ障の部分はクリアできるのでは、と考えたわけです。

データ化され、比較されるということ

 「あかん、こりゃ駄目だ!」

 それから3ヶ月ほど、授業と研究の時間以外、睡眠時間を削ってマッチングアプリに取り組んだわけなのですが、散々な結果でした。

 何度、申込みをしてもマッチングしてもらえない。

 少しでも魅力的に見えるようにプロフィールを作り直しても、PV数が微妙に増えるだけで、マッチングにはつながらない。

 それなら、アプリの機能をフル活用し、少しでも自分の属性(釣り・バイク好きや、大学院修了など)に嵌りそうな女性を探し出して申し込みしても、マッチングにはつながらない。

 それこそ、私が先日発売した『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』(クロスメディア・パブリッシング)の主人公、山口くんとほぼ同じ行動をしていて、連敗を続けていたわけです。

 アプリの利用をはじめて2ヶ月が過ぎた頃に、ようやく2件ほどマッチングが成立したのですが、1人目はメッセージを送れども返事が返ってくることがなく、2人目はお互い自己紹介するメッセージを交換した後、いきなりマッチングが解消されてしまいました。

「ブサイクだし、年もとっているから婚活は無理だな」

 当時、そう結論づけて会員登録を解約し、マッチングアプリをスマホから削除しました。

 ところが、実はそんな簡単な理由でアプリ婚活に失敗したのではない、という事に気づいたのは随分後のことでした。

1 2 3

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

関連記事

新刊紹介

高橋勅徳

たかはし・みさのり
東京都立大学大学院経営学研究科准教授。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。2002年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。
専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。
2009年、第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。2019年、日本NPO学会 第17回日本NPO学会賞 優秀賞受賞。
自身の婚活体験を基にした著書『婚活戦略 商品化する男女と市場の力学』がSNSを中心に大きな話題となった。

Twitter @misanori0818

週間ランキング 今読まれているホットな記事