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みんながほしいサービスなのにどうして提供されていない? 魚のさばき屋さんの「価格」を考える

京都にある神施設「釣人の駅」

 幸いにというか不幸にもというか、私は未だに独身なので、釣った魚を自宅に持って帰っても怒られることは有りません。

 ただ、大漁の時ほど困ります。例えばこの時期に美味しい寒サバを狙って船に乗り、運良く群れに当たると50匹近く釣れてクーラーボックスが満杯になったりします。釣っている最中は夢中になっていますが、困るのは自宅のキッチンでクーラーボックスを開けたときです。その日に食べる分を除いて冷蔵・冷凍保存するにしても、まずは鱗と内臓を取らねばなりません。

 それでも50匹の魚を食べきるのは大変なので、友人に配ろうとするのですが、三枚におろして直ぐに食べられる状態にしておかないと貰ってくれません。早朝5時に出船して帰船が13時、そこから1時間かけて車で帰宅した後、50匹のサバを処理する……相当にハードな一日になります(妻帯者の釣りオヤジですと、奥様からのお小言というイベントが追加されます)。

 こうなると、「いま旬の○○が大漁! トップ100匹!」という情報が回ってきても、「どうやって食べるねん」と二の足を踏むことになります。実は、釣り人口が減少を続けている一つの理由が、「釣った魚をどうやって処理するのか?」ということにあったりします。

「高橋先生、これ凄くないですか?」

 先日、同じ悩みを持つ釣り仲間の先生が紹介してくれたのが、「釣人の駅」という、京都は若狭湾に位置するお店でした。

 近隣の漁師の方が始めたこのお店が提供するのは、1匹150〜800円で釣った魚の下処理を請け負ってくれるだけでなく、真空パックで全国配送してくれるサービスです。更に、思わぬ大漁に恵まれた場合は魚を引き取ってもらえて、ポイントカードに記録されます(原則当日釣行分のみ、氷でしっかり冷やしてお店に持ち込んだ魚のみ対応)。このポイントは、店内で販売されている魚や、次回の釣果の処理に使えるという仕組みになっています。つまり、サバやアジのように大漁に釣れる魚でポイントを貯めて、クエ等の高級魚と交換してもらうことも可能なわけです。
 
 この「釣り人の駅」ですが、世界中の釣りオヤジの悩みを解決してくれるだけでなく、私のような独り身の釣りオヤジや、これから釣りを始めたいけど魚を調理できない初心者にとって、夢のようなサービスです。

「釣り人の駅」は漁師さんがスタートしただけあり、引き受けた魚の卸先もありますし、そのために業務用の急速冷凍庫や真空パック用の機械など充実した設備が整えられています。しかし、単に「魚の下処理サービス」を提供するだけならば、水道設備と包丁とまな板があれば明日からでも開業可能です。それこそ、釣り船が集まる港の近くにキッチンカーを横付けして、「魚のさばき屋さん」を開業することも可能です(フグのように毒のある魚の下処理を断るなど、安全上注意すべきことは幾つかあると思いますが)。

 釣り客にとって魚を持ち帰って奥様にお小言を頂くこともなくなる夢サービスであり、釣りのハードルが下がるので釣り船にとっても好都合です。低投資で明日からでも始められるビジネスでありつつ、食品を提供するわけではないので面倒な法律上の手続きはおそらく有りません。

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高橋勅徳

たかはし・みさのり
東京都立大学大学院経営学研究科准教授。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。2002年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。
専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。
2009年、第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。2019年、日本NPO学会 第17回日本NPO学会賞 優秀賞受賞。
自身の婚活体験を基にした著書『婚活戦略 商品化する男女と市場の力学』がSNSを中心に大きな話題となった。

Twitter @misanori0818

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