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メンズ眉毛サロンへ潜入せよ! 眉毛ケアを通じて、おじさんは初めて人の心を知る

 さあ、そろそろお家に帰ろう。愛する恋人にも、生まれ変わったこの眉毛を見てもらいたい。さぞや驚くことだろう。そして、お互いの眉毛を見せ合いっこして遊ぶのだ。
 そんな期待に胸膨らませる私を待っていたのは、恐ろしいほどの塩対応、いやノーコメントであった。もしかして本当に気づいていないのか?
 ことあるごとに話しかけてみたり、にらめっこをして遊ぼうと誘ってみたり、手を変え品を変えアピールを続けるものの、彼女の口から私の眉毛について何かが語られることはいっさいなかった。

 やがて夜は更け、寂しいような悔しいような気持ちで布団にくるまる私に「おやすみ、眉毛イジったんだね。結構似合ってるじゃん。でも私はもう少し太い方が好きかな?」という彼女の声がする。

「やっぱ気づいてたの?」
「私が美容室から帰ってきても、いつも反応が薄いくせにさ、自分のことは褒めて欲しいって目をキラキラさせ過ぎ。ムカついたから仕返しをしたの」

 心当たりはいくつもある。こいつだけじゃない。過去の恋人たちも皆同じように文句を言っていた。ごめんよ、みんな、私はようやく自分の愚かさに気づいた。自分の変化に気づいてもらえないことってこんなにも悲しい気持ちになるんだな。

 ようやく眉毛を褒めてもらえた嬉しさと謝罪の念が入り混じり、感情がオーバーヒートした私は大粒の涙をポロポロと流す。
 カシャッ!
 その泣き顔を彼女がスマホでパチリ。
「こんなキリっとした眉毛で泣くおじさん初めて見たよ」と微笑む彼女から手渡されたスマホの写真を見て私も泣き笑い。
 私は知りたい。もっと自分に似合う眉毛を、愛する人によく似合う眉毛を知りたい。そしてこの文章を読んでいるあなたがどんな眉毛をしているのかも私は知りたい。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は5月28日(日)配信予定です。お楽しみに!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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